ひとり行く
何でも新型爆弾を、この町に投下すると言つて来てゐるんやて。白旗を挙げても爆弾投下はヤメやせんと言つてるんやと。
あつちでは、戦争がどうであるかといふことには関係無い、ワシらは、爆弾を作つたから爆発させてみなければ気がすまない、と言つてゐるんださうや。ヤンチャ坊主の集団みたいな言ひぐさじやないか。
こつちでは、ただもうあつちへ行かなければならへん。こつちで選べるのは、白旗を挙げる、挙げないではなくて、捕虜でござい、やつかいになるんやと、ズダ袋を背負つて敵地に頭を下げて出かけるか、玉砕散華を実行するかのどつちかなんやと。
もうここには用は無いつて言ふ。この町はイランさうや。
戦地か、とウチは思ふ。
遅かれ早かれ、行くべきとこだつたんや。オヤジがショゲ返ることだらうや。戦地とはあっさり言えば、あつちの町といふことで、戦争に行つたやつらの大半が、戦争どころか、あつちの町のやつらに壊柔されて、ウマイこと暮らしてるといふのや。カカアはゐないしオソバメ様はわんさかゐるし、戦争どころかゴクラクだあ、と言つてるやつらも出るしまつなんやと。
「どつから聞いて来よったんだよ、あんた」
「あれ、シンジョウはんが言つてたよ。あの人、こないな事ならオレも行つとけばいかつたんやわ。年寄りとカリュウビョウ患者の女しかゐねえ町にはあきあきしたつて言つてたよ」
「ケッ、出どこはあの博打うちか、あいつ口先だけのやつだよ。真理といふものをいっぺんも追究しやうとしたことがないんや。あないなやつの言ふことなんか、あてになるもんか」
京子はウチの顔を眺めながら、にやにや笑つてゐるのんや。
「ターちゃんね、彼氏はあんたに戻つて来てもらひたいみたいよ。娘が夜ふけに泣きやまんのだとさ」
「おいおい、」と、ウチは言つたんやわ。
「戻るたあ、何のこと。ウチはあないなヤツとは無関係よ。確かにあの子があんまり可愛かつたから、一晩添ひ寝をしてやつたことはあつたけど、勘違ひせんでね。あいつ、つけ上がつて朝方にウチの背中にはりついて来やがつたんやわ。
こないなことは言ひたくないけどね、ウチは親父の撃退で、大分そのへんのスベはうまくなつてるんや。
身を翻して股間を蹴つて、そのまんまスツクと立ち上がつて、左顔面も踏みつけてやつたんやから。
あいつの顔が長いことドテカボチャみたいに膨れてさ、生まれぞこないのパンダみたいな痣をつけてゐたのは、しつかり見たでせう、ね、あれは何を隠さう、ウチのやつたことなのさ」
「ググッ」と、京子は食べてゐたカボチャの煮つけを喉につまらせてうめいたんやわ。ほんでトントンと箸を持つた手で胸を叩いて息をついたんやわ。
「何だ、みつともない、飢えたババアが餅を食つてるみたいに。アワを食ふか餅を食ふかどつちかにしろつていふんだ、そんなんは。あんまりウチを見そこないまへんでね」
「まあまあ、あんたつて人は。それにしても、なんてことを・・・・」
京子は途方に暮れたやうな顔で顎を引いて上目使ひにウチを見つめたんやわ。見たことのない顔をしてたんやわ。
「あ、カボチャでも食べなさい。ターちやん、せやけど、それはほんまのことなん?ほんまにほんまなん?あんたは昔から自分とこのしたことを派手に紛飾するクセがあつたもんやから。あんたは昔からさうやつたんやわ。あ、ほんまにカボチャは食べてええのんよ。ターちやん、あんたは、おなかが空くと妄想におかされるタチやつたもんなあ」
「ヘッ」とウチは鼻でせせら笑つてやつたんやわ。
「京子、カボチャ食べてええのん?あんたらしくもないやんか。絶対にメシは食はせられん。泊まるだけならええけどつて、こないだ言つたやんか。信念の女やなかつたんか。あのね、ウチは熱に浮かされても妄想に冒されてもをらんのよ。」
「このカボチャはべつなんや。食べなさい、こないなもん。でも、あんた、えらいことしてもうたんやなあ」
「なんで?なんのこと?」
「ウチはまた、あんたがあの人のためにここに残ることに決めたんやと思つたんやで。彼氏もさう信じとるのんや。
実はゆうべ、このカボチャを持つて来てくれてなあ、あの人が。なんとかターちやんに納得してくれるやうに説得してくれへんかと頼まれたんや。そいでウチ、そないになつてるとは思へへんやんか、まかしときつて答へてやつたんやわ」
ウチは呆れかへつて、カボチャをどんぶりに盛りつけてゐる京子を眺めたんやつたんやわ。
「なんなんや、その臆惻は。あんまり人を見くびらんでね。ウチがあないなチンケなイカサマ野郎にホレタつてか」
「だつて、そないならなんでこの町に残つたの。その他に何のワケがあつたんや?」
「ワケ?ワケなんてないわ。ウチは若いんやで。あんたよりも若い。青春は出不性なものなんや。どこにも行きたくなかつただけ。・・・・・せやけど、今はもう違ふ。ウチは行くわ。京子、あんた円盤や機関車に乗つたことある?」
「なに言つとるの。そんなんに乗つたことあるわけないわ。ウチは神社の境内で拾はれたんや。この地の神さんのムスメやで。そないなものに乗ることは、神さんにソムくことやないか」
「さうか。誘ふつもりもないんや。ウチはひとりで行くの。汽車にするわ」
「どうやつて?そんなことできるワケないやんか」
「かうなつたら手段をえらびません。役場のカレイの干物をオドすしかあらへん。あいつがスパイやといふシッポは掴んどるんや」
テクノラティプロフィール
何でも新型爆弾を、この町に投下すると言つて来てゐるんやて。白旗を挙げても爆弾投下はヤメやせんと言つてるんやと。
あつちでは、戦争がどうであるかといふことには関係無い、ワシらは、爆弾を作つたから爆発させてみなければ気がすまない、と言つてゐるんださうや。ヤンチャ坊主の集団みたいな言ひぐさじやないか。
こつちでは、ただもうあつちへ行かなければならへん。こつちで選べるのは、白旗を挙げる、挙げないではなくて、捕虜でござい、やつかいになるんやと、ズダ袋を背負つて敵地に頭を下げて出かけるか、玉砕散華を実行するかのどつちかなんやと。
もうここには用は無いつて言ふ。この町はイランさうや。
戦地か、とウチは思ふ。
遅かれ早かれ、行くべきとこだつたんや。オヤジがショゲ返ることだらうや。戦地とはあっさり言えば、あつちの町といふことで、戦争に行つたやつらの大半が、戦争どころか、あつちの町のやつらに壊柔されて、ウマイこと暮らしてるといふのや。カカアはゐないしオソバメ様はわんさかゐるし、戦争どころかゴクラクだあ、と言つてるやつらも出るしまつなんやと。
「どつから聞いて来よったんだよ、あんた」
「あれ、シンジョウはんが言つてたよ。あの人、こないな事ならオレも行つとけばいかつたんやわ。年寄りとカリュウビョウ患者の女しかゐねえ町にはあきあきしたつて言つてたよ」
「ケッ、出どこはあの博打うちか、あいつ口先だけのやつだよ。真理といふものをいっぺんも追究しやうとしたことがないんや。あないなやつの言ふことなんか、あてになるもんか」
京子はウチの顔を眺めながら、にやにや笑つてゐるのんや。
「ターちゃんね、彼氏はあんたに戻つて来てもらひたいみたいよ。娘が夜ふけに泣きやまんのだとさ」
「おいおい、」と、ウチは言つたんやわ。
「戻るたあ、何のこと。ウチはあないなヤツとは無関係よ。確かにあの子があんまり可愛かつたから、一晩添ひ寝をしてやつたことはあつたけど、勘違ひせんでね。あいつ、つけ上がつて朝方にウチの背中にはりついて来やがつたんやわ。
こないなことは言ひたくないけどね、ウチは親父の撃退で、大分そのへんのスベはうまくなつてるんや。
身を翻して股間を蹴つて、そのまんまスツクと立ち上がつて、左顔面も踏みつけてやつたんやから。
あいつの顔が長いことドテカボチャみたいに膨れてさ、生まれぞこないのパンダみたいな痣をつけてゐたのは、しつかり見たでせう、ね、あれは何を隠さう、ウチのやつたことなのさ」
「ググッ」と、京子は食べてゐたカボチャの煮つけを喉につまらせてうめいたんやわ。ほんでトントンと箸を持つた手で胸を叩いて息をついたんやわ。
「何だ、みつともない、飢えたババアが餅を食つてるみたいに。アワを食ふか餅を食ふかどつちかにしろつていふんだ、そんなんは。あんまりウチを見そこないまへんでね」
「まあまあ、あんたつて人は。それにしても、なんてことを・・・・」
京子は途方に暮れたやうな顔で顎を引いて上目使ひにウチを見つめたんやわ。見たことのない顔をしてたんやわ。
「あ、カボチャでも食べなさい。ターちやん、せやけど、それはほんまのことなん?ほんまにほんまなん?あんたは昔から自分とこのしたことを派手に紛飾するクセがあつたもんやから。あんたは昔からさうやつたんやわ。あ、ほんまにカボチャは食べてええのんよ。ターちやん、あんたは、おなかが空くと妄想におかされるタチやつたもんなあ」
「ヘッ」とウチは鼻でせせら笑つてやつたんやわ。
「京子、カボチャ食べてええのん?あんたらしくもないやんか。絶対にメシは食はせられん。泊まるだけならええけどつて、こないだ言つたやんか。信念の女やなかつたんか。あのね、ウチは熱に浮かされても妄想に冒されてもをらんのよ。」
「このカボチャはべつなんや。食べなさい、こないなもん。でも、あんた、えらいことしてもうたんやなあ」
「なんで?なんのこと?」
「ウチはまた、あんたがあの人のためにここに残ることに決めたんやと思つたんやで。彼氏もさう信じとるのんや。
実はゆうべ、このカボチャを持つて来てくれてなあ、あの人が。なんとかターちやんに納得してくれるやうに説得してくれへんかと頼まれたんや。そいでウチ、そないになつてるとは思へへんやんか、まかしときつて答へてやつたんやわ」
ウチは呆れかへつて、カボチャをどんぶりに盛りつけてゐる京子を眺めたんやつたんやわ。
「なんなんや、その臆惻は。あんまり人を見くびらんでね。ウチがあないなチンケなイカサマ野郎にホレタつてか」
「だつて、そないならなんでこの町に残つたの。その他に何のワケがあつたんや?」
「ワケ?ワケなんてないわ。ウチは若いんやで。あんたよりも若い。青春は出不性なものなんや。どこにも行きたくなかつただけ。・・・・・せやけど、今はもう違ふ。ウチは行くわ。京子、あんた円盤や機関車に乗つたことある?」
「なに言つとるの。そんなんに乗つたことあるわけないわ。ウチは神社の境内で拾はれたんや。この地の神さんのムスメやで。そないなものに乗ることは、神さんにソムくことやないか」
「さうか。誘ふつもりもないんや。ウチはひとりで行くの。汽車にするわ」
「どうやつて?そんなことできるワケないやんか」
「かうなつたら手段をえらびません。役場のカレイの干物をオドすしかあらへん。あいつがスパイやといふシッポは掴んどるんや」
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