茅の葉
頭に茅の葉のようなものが生えてきた。
50センチはある。
それが耳のそばでガサガサいうのが煩はしい。
引き抜かうとすると頭皮がひきつれるやうな痛みがあるが、スポリと抜けたときの快感といふものは表現しがたいものがある。
さらに抜けた跡には鉛筆が一本スルリと入りさうな穴ができるが、瞬間、そこから外気が吹き込んで、えも言はれぬやうな爽快感が頭に、従つて全身に広がるのである。
その穴は粘膜で覆はれてをり、即座に体液が分泌してきてものの数秒の後には塞がつてしまふ。従つて爽快感も瞬時の事である。
この快感を経験で知つてゐるものだから、ある朝目覚めて頭がガサガサいふと煩はしい感じより、ちよつと嬉しくなる程である。
この茅の葉は、頻繁にでは無いもののちよくちよく生える。
たまの楽しみといふものになつてゐる。
これは自分一人ではない。
誰でもがさうである。
人間ならば誰にでも生じる現象であつて、特殊なものでは無い。そしてあの引き抜くときの快感も万人に共通のものであるらしく、人は他人の頭に茅の葉が生えてゐるのを見つけるとちよつとうらやましい気持ちになるらしい。
とは言ふものの公然とした場所に頭に茅の葉が生えた状態で出ることは、やはり少し憚られる事なのではあつた。
従つて頭に茅の葉が生えた人を見ると、皆羨ましさを感じつつ何かからかひの言葉を言ふのが、まあ、習慣と言ふものになつてゐるのである。
ある時、頭に何十本と茅の葉を生やしたままで町中を公然と歩いてゐる男がゐた。
人々はあきれかえつた表情でこの男を見てゐる。
自分もちよつと驚いたが、同時に非常な羨望をこの男に対して抱いた。
人々の表情の底にもそれが現われてゐる。
何しろ一本の茅の葉を引き抜くだけであれだけの快感があるのである。
自分は茅の葉が生えてくる度に、それが社会の通念上即座に引き抜く事にしてゐるのだが、あの男は平気で茅の葉をため込んでゐるのである。
たぶん快感を最大限に味ははふといふ目論見に相違無い。
一気にあれだけの量の茅の葉を引き抜く時の快感は、いつたいどんな量になるのだらう。
想像しただけで恍惚とした気分になる。
他人の事は判らないから、あるひはあの男は老後の楽しみにあの茅の葉をとつてをいてゐるのかもしれない。
時が来たなら、一気に引き抜くといふやうな瞬時の快感は止めて、一日一本ずつ引き抜いて楽しみとするのかもしれない。
それを思ふと浅ましいやうな気にもなるが、やはり羨ましいのではある。
テクノラティプロフィール

頭に茅の葉のようなものが生えてきた。
50センチはある。
それが耳のそばでガサガサいうのが煩はしい。
引き抜かうとすると頭皮がひきつれるやうな痛みがあるが、スポリと抜けたときの快感といふものは表現しがたいものがある。
さらに抜けた跡には鉛筆が一本スルリと入りさうな穴ができるが、瞬間、そこから外気が吹き込んで、えも言はれぬやうな爽快感が頭に、従つて全身に広がるのである。
その穴は粘膜で覆はれてをり、即座に体液が分泌してきてものの数秒の後には塞がつてしまふ。従つて爽快感も瞬時の事である。
この快感を経験で知つてゐるものだから、ある朝目覚めて頭がガサガサいふと煩はしい感じより、ちよつと嬉しくなる程である。
この茅の葉は、頻繁にでは無いもののちよくちよく生える。
たまの楽しみといふものになつてゐる。
これは自分一人ではない。
誰でもがさうである。
人間ならば誰にでも生じる現象であつて、特殊なものでは無い。そしてあの引き抜くときの快感も万人に共通のものであるらしく、人は他人の頭に茅の葉が生えてゐるのを見つけるとちよつとうらやましい気持ちになるらしい。
とは言ふものの公然とした場所に頭に茅の葉が生えた状態で出ることは、やはり少し憚られる事なのではあつた。
従つて頭に茅の葉が生えた人を見ると、皆羨ましさを感じつつ何かからかひの言葉を言ふのが、まあ、習慣と言ふものになつてゐるのである。
ある時、頭に何十本と茅の葉を生やしたままで町中を公然と歩いてゐる男がゐた。
人々はあきれかえつた表情でこの男を見てゐる。
自分もちよつと驚いたが、同時に非常な羨望をこの男に対して抱いた。
人々の表情の底にもそれが現われてゐる。
何しろ一本の茅の葉を引き抜くだけであれだけの快感があるのである。
自分は茅の葉が生えてくる度に、それが社会の通念上即座に引き抜く事にしてゐるのだが、あの男は平気で茅の葉をため込んでゐるのである。
たぶん快感を最大限に味ははふといふ目論見に相違無い。
一気にあれだけの量の茅の葉を引き抜く時の快感は、いつたいどんな量になるのだらう。
想像しただけで恍惚とした気分になる。
他人の事は判らないから、あるひはあの男は老後の楽しみにあの茅の葉をとつてをいてゐるのかもしれない。
時が来たなら、一気に引き抜くといふやうな瞬時の快感は止めて、一日一本ずつ引き抜いて楽しみとするのかもしれない。
それを思ふと浅ましいやうな気にもなるが、やはり羨ましいのではある。
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