今朝の夢

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今朝の夢

 俺がその鳥を見つけたのは、五月の雨の朝だつた。

 雨音は強まりもせず、弱まりもしない。
 トタン屋根に降りかかる音で、かなり強い雨であることがわかった。
 俺は明かりを消した部屋の中で、あおむけに横になり、ぼんやりとその音を聞いてゐた。

 どこからか植物のにおいがしている。
 新しい芽吹いたばかりの葉のにおいだ。甘さを含んだ、頭のなかまでしみ通りそうなにおいだった。

 昨夜寝しなに気づいたことだが、沼のほとりのミズがもう食べごろになつてゐるだらう。

 沼のほとりの一画にミズが生えるのは子どもの頃から知つてゐる。

 ミズは子どものころからの俺の好物なのだ。
 朝飯にミズのトロロを食ふ、さう思ひ立つと、明かりを消して蒲団にくるまつた俺は嗅覚の記憶の底のミズの匂ひを含んだ風につつまれるやうな気がした。

 いつときは眠れなかつた。夢の中で、俺は眠れなかつたのだ。

 馬が走つてゐた。
 二頭の馬だ。
 跳躍を繰り返して走つてゐた。飛行距離の長い、跳躍だつた。

 見てゐると、馬が跳躍にかかるたびに息がつまつた。
 流れるやうに二頭の馬は放物線を描きつつ走つた。

あまりにも長い飛行なので、着地の都度、騎手は振り落とされまいと手綱を引き締め、馬は首を棒立ちにしたが、すぐにぐいと前方に戻しては次の跳躍にかかるのだ。
 草原は朝だつた。

 出血する夢から醒めて暫時反芻してゐると、細やかな降りらしい雨音が聞こえてきた。
 新聞配達の少女を泣かせる未明の雨だ。

 夢のいきさつがわからない。

 砕けた欠片のやうに散り残つた夢幻を繋いでみるのだが、夢の入口が見えてこない。

 懐旧のやうな味が残つてゐて、刺傷の障撃にも消されることなく、通奏したその味を、それすらも夢の続きのやうに反芻した。

 雨は途切れて軒先からしたたる音になつたかと思へば、いつかまた地虫の声が地の底から泌み出すやうに雨音が鳴きだすのだ。

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