馬、笑う【草の宿(345)】

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馬、笑う【草の宿(345)】

 柳の枝と蕗の葉でくるんだ包みものを、男と尋夫は葛の蔓で背中に背負っています。ぜいぜいと荒い呼吸をたてて、崖道を上りきり、思わず大息の吐息をつきました。

 馬は不思議なものを見るような目で、二人を眺めています。
 草をはむのをやめて、二人に近づくと、包みものから匂い立つものを嗅ぐように鼻を近づけました。鼻腔にしわを寄せて、歯茎を少し見せます。

「おや、おまえ、笑っているのかい」

 尋夫が馬の表情に驚いて思わず声をかけると、荒息の中で男が笑いました。

「そうとも、こいつは笑い上戸なんだよ。思わぬ授かり物をしたことを、鹿毛のやつ、すぐに見抜いたようだ」

 藪を漕ぎ、はいつくばるように崖を登ってきた男のむき出しの両腕、両脚には幾筋かミミズ腫れのようなひっかき傷ができていました。

「おじさん、半ズボンとランニングで薮こぎはつらかったろう。痛くないかい」

「何の、ちょいとかゆいばかりだ。それより、ブヨが出始めるぞ。鹿毛もブヨは苦手だ。日もちょうどいい加減だし、そろりと帰ろう」

 肩口にずしりとトビダケの重みを感じながら、尋夫は先に立って歩き始めます。

 それにしても今日一日は、激しく身体を使いぬいたような気がします。土橇との格闘から始まった長い一日が終わろうとしています。トビダケの重みは、一日の仕事の報酬のような気がしてくるのでした。
 足取りは重いけれど、なんとも満ち足りた思いを尋夫は覚えていました。




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