闇の底の畑で【西瓜(3)】

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西瓜(3)
 某は垣根から上体を乗り出して、その白いものを見極めやうとした。

 かすかな音は相変わらず畑のどこからか泌み出るやうに鳴り続けてゐる。

 それは時折、キュッキュッと断続したかと思ふと、あたかも子供のため息に似た柔らかに震へる弱々しい風の摩擦音のやうにも聞こえるのだつた。

 某は垣根の切れ目から体を滑り込ませて畑の中に入り、その白いものを見定めやうとした。
 注意深く、畝を踏まぬやうに、一歩一歩地面を確かめて歩いた。
 どうやらそれは一枚の白い布であるらしかつた。

 身を前屈みにし、そのものを手しやうとしたのであつたが、いきなり乾いた荒々しい音が頭上で鳴り渡り、身を竦めて見上げた某の目に、真つ黒な塊が空中を横切り、消えるのがちらりと見えた。
 夜鷹だつた。
 某は一息、息を太く吐き出した。

 某の足元の白いものは、どうやら男物のシャツらしかつた。
 それは丁度、風呂敷包みのやうに何かを包み込んでゐた。
 襟元は夜目にも白く、手触りも糊がきいてゐてピンとしてをり、新しいもののやうだつた。
 
 某はシャツを持ち上げた。
 かすかに人間の体臭がしたやうな気がしたのは錯覚だつたらうか。

 ゴロリと、持ち上げたシャツの中から、固い丸いものが転がり出た。

 青臭さと、甘味の混じり合つた匂ひがプンとした。

 息を呑んでよくよく見つめれば、それは西瓜だつた。
 一抱へもありさうな大きな西瓜である。

 一部分がグシャリとつぶれ、赤い果肉がのぞいてゐた。
 誰かが捨てたものだらうか。

 某はシャツだけならばどこぞの物干しから風に飛ばされて来もしやうが、それがあたかも風呂敷のやうに、西瓜を包んでゐることに不審な感じがした。
                   (続く)

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