古い唄【叫び沢(12)】

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古い唄

 めぐる つらみの ひぐらしに
 くもの はたては あかまぶれ
 かかの なみだは ちのなみだ

 祭りの日は、雨でござゐました。細かな、音も無く降る雨でござゐました。

 私は小さな窓から降る雨を眺めながら、足袋の繕ひをしてをりました。その手仕事をしながら、ふと我にも似ずに唄などを口ずさんでゐたことに驚くのでござゐました。よりによつて奇妙な唄を覚へてゐたものでござゐます。私は不審がりながらも、今度は声をはつきりさせて唄つてみたのでござゐました。

 この部落の人々がこんな唄を口にするのを聞いたことも無く、言葉もこの土地のそれとは異なつてをりますから、おそらくは母が唄つたものに思はれるのでござゐました。

 私の記憶には、つぶやくやうにかすかな声で唄ふことがあつた母の姿がござゐました。唄は残り、それが私のどこからか不意に浮かんで来たのでござゐました。
 それにしても母が口ずさんだものとすれば、そして私がはつきりと記憶を抱くやうになつてからは聞いたことが無いとすれば、私が幼い時分に記憶されたものでもあつたのでござゐませうか。

 私は覚へず胸の内で叫ばずにはゐられませんでした。

 背中を何かが貫通したやうな気がゐたしました。繕ひものを手にしたまま、この思ひによる強い痛みに体が震へだすのでござゐました。

 母にとつての特別な唄、もはやそれを母の口ずから、幼いをりに聞き覚へたものであるといふことは間違ひあるまひと思はれるのでござゐました。

 私は何といふぼんやりした子供であつたことでござゐませうか。

 母の心を充分に知つてゐたと考へてゐた今までの私は、何と母を知らない子供であつたことでござゐませう。

 幼いをりから私は、母の苦しみを少しでも無くしてあげたいと考へてをりました。それに些かも嘘はござゐませんが、母の本当の思ひの底にはついに至つてゐなかつたのでございませう。

 子供の私は、子供であつた私にはいかんともしがたい思ひといふものがあるなどとは、ついに知り得ずにその日まで来てしまつてゐたのでござゐました。

 必ずや間違ひの無いことでござゐませう、この唄は母の願ひだつたのでござゐませう。この唄は子に次々に死なれ、また一人に死なれたる、親の嘆きの唄でござゐませう。口減らしの決意をした親の手を待つまでもなく、子が次々と死に行く唄でござゐます。赴く子を呼び戻すことを禁じられた親の唄でござゐます。


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HI! NICE SITE! Lovely design!
2007/08/09(木) 05:15 | URL | Sarah #VWFaYlLU[ 編集]
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