草の宿(276)
おばさんがカタカゴを何処で見つけたか、尋夫はそんなことを今まで一度として考えたことはありませんでした。
「俺と大学ばあさんが炭俵を担いだときは、まだ雪の下から地面がほんの少ししか現れてなかったよ。あの時に地面が現れていたとすれば、やっぱりこの尾根の続きだと思う。谷地のあたり、池糖のあたり、あの辺が一番雪解けが早いはずだ。
ひょっとしたら、俺と爺ちゃんがスキーでマンサクを見に行ったあたりじゃないかな。」
尋夫は考え考え、おばさんに答えました。

「そのマンサクがどのマンサクやらわからないけど、それはきっとあのマンサクだろう。おおむねお前の言うとおりだよ」
おばさんが、にこりとしながら言いました。
「ほんとかい、おばさん。でも俺はカタカゴの群生しているところなんて、この山で見たことはないよ」
「あたしの言うマンサクが、お前と爺ちゃんが詣でたマンサクと同じものならば、カタカゴはその根方だ」
「そうか、俺は雪の上でしかあのマンサクのあたりへは行ったことがない」
「でもあの辺が雪解けが早いことはよく知ってたな」
「マンサクが咲いているときにわかったよ。シュカブラが消えるほどに日当たりが良かったし、南に向いて突起になってて風もぶち当たるところだ。積もる雪もあそこは一番浅そうだ」
「よしよし、上出来だよ。山菜なんて言うのはね、尋夫。むやみに藪を漕ぎ分けて歩き回ればいいというものじゃないよ。お前だってまさか蕨のホタが雪の下から現れた原っぱを、まさかミズを探して歩き回らないだろ」
「ミズは谷地が好きだね」
「カタカゴだってそうだよ。カタカゴはアメフリバナに、よく似ていてね。どうもあいつら、春の地面では一番先に花を咲かせようとがんばるんだ。気の遠くなるような長い間がんばり続けリャ、カタカゴだって一番先に花を付けることができる土地に集まるのさ」
小野のおばさんの説明は、論理的ではないかも知れませんが、尋夫はしかと納得しました。少しは知っているこの山のことです。この山で見つけた植物の有り様を、ちらりと思い浮かべれば、山菜のありかを説明するには小野のおばさんのように語るしかないような気がしてきます。
「山菜のタチを知らないといけないみたいだ。むずかしいな」
「それで十分。やたらに人に山菜のありかを尋ねてばかりではだめ。なに、一年この山に暮らしていたら、山菜が好きな場所は少しずつわかってくるわ。私だって薄ぼんやりと想像するばかりさ。だけど薄ぼんやりとでも山菜の気持ちになれば、藪漕ぎはほんの少しですむんだ」
「俺は知らないことばかりだ。ところでおばさん、今日はなにを採るんだ」
「今日ねえ、まだ小さくて気の毒だけど、それじゃタラの芽を少しつんじまうかな」
「へえ、おばさんは当てもなくて山菜採りに山にはいることがあるのかい」
「なんだい、今日の私のことかい。お前、勘違いしてるぞ。私は今日は山菜採りに来たんじゃない」
「じゃあ、何のため。まさか俺が腹を減らしているとでも思ってきたんじゃないだろ」
おばさんはカラカラと笑いました。
「何の、お前のことなんか心配しているもんか。心配なのは、お前がもしかしたら私の酒を飲み干してしまわないかと言うことだ」
「酒?ははあ、ドブロクのことだな。爺ちゃんから聞いた。それじゃあそのリュックの中身は麹か何かか」
「こいつ、今の季節になってから仕込んでどうする。お前、まさかほんとに私の酒を飲んじまったんじゃないだろうね。窯の中に新しいのを仕込ませてもらってるんだ。
ほれ、ミヤコの店に行ったときにね、ドブロクをまた飲みたいと言うから、新酒をみんなに振る舞ってやろうと思ってさ」
尋夫はただただびっくりしておばさんの説明を聞くばかりでした。
「今、窯の中の仕込んだ酒で、おしまいさ。今度の仕込みは、この秋口だ。尋夫、それまであの小屋にいるんだよ」
おばさんはこともなげにつぶやいて、早くもタラの木を見つけて指さして見せました。
テクノラティプロフィール

おばさんがカタカゴを何処で見つけたか、尋夫はそんなことを今まで一度として考えたことはありませんでした。
「俺と大学ばあさんが炭俵を担いだときは、まだ雪の下から地面がほんの少ししか現れてなかったよ。あの時に地面が現れていたとすれば、やっぱりこの尾根の続きだと思う。谷地のあたり、池糖のあたり、あの辺が一番雪解けが早いはずだ。
ひょっとしたら、俺と爺ちゃんがスキーでマンサクを見に行ったあたりじゃないかな。」
尋夫は考え考え、おばさんに答えました。

「そのマンサクがどのマンサクやらわからないけど、それはきっとあのマンサクだろう。おおむねお前の言うとおりだよ」
おばさんが、にこりとしながら言いました。
「ほんとかい、おばさん。でも俺はカタカゴの群生しているところなんて、この山で見たことはないよ」
「あたしの言うマンサクが、お前と爺ちゃんが詣でたマンサクと同じものならば、カタカゴはその根方だ」
「そうか、俺は雪の上でしかあのマンサクのあたりへは行ったことがない」
「でもあの辺が雪解けが早いことはよく知ってたな」
「マンサクが咲いているときにわかったよ。シュカブラが消えるほどに日当たりが良かったし、南に向いて突起になってて風もぶち当たるところだ。積もる雪もあそこは一番浅そうだ」
「よしよし、上出来だよ。山菜なんて言うのはね、尋夫。むやみに藪を漕ぎ分けて歩き回ればいいというものじゃないよ。お前だってまさか蕨のホタが雪の下から現れた原っぱを、まさかミズを探して歩き回らないだろ」
「ミズは谷地が好きだね」
「カタカゴだってそうだよ。カタカゴはアメフリバナに、よく似ていてね。どうもあいつら、春の地面では一番先に花を咲かせようとがんばるんだ。気の遠くなるような長い間がんばり続けリャ、カタカゴだって一番先に花を付けることができる土地に集まるのさ」
小野のおばさんの説明は、論理的ではないかも知れませんが、尋夫はしかと納得しました。少しは知っているこの山のことです。この山で見つけた植物の有り様を、ちらりと思い浮かべれば、山菜のありかを説明するには小野のおばさんのように語るしかないような気がしてきます。
「山菜のタチを知らないといけないみたいだ。むずかしいな」
「それで十分。やたらに人に山菜のありかを尋ねてばかりではだめ。なに、一年この山に暮らしていたら、山菜が好きな場所は少しずつわかってくるわ。私だって薄ぼんやりと想像するばかりさ。だけど薄ぼんやりとでも山菜の気持ちになれば、藪漕ぎはほんの少しですむんだ」
「俺は知らないことばかりだ。ところでおばさん、今日はなにを採るんだ」
「今日ねえ、まだ小さくて気の毒だけど、それじゃタラの芽を少しつんじまうかな」
「へえ、おばさんは当てもなくて山菜採りに山にはいることがあるのかい」
「なんだい、今日の私のことかい。お前、勘違いしてるぞ。私は今日は山菜採りに来たんじゃない」
「じゃあ、何のため。まさか俺が腹を減らしているとでも思ってきたんじゃないだろ」
おばさんはカラカラと笑いました。
「何の、お前のことなんか心配しているもんか。心配なのは、お前がもしかしたら私の酒を飲み干してしまわないかと言うことだ」
「酒?ははあ、ドブロクのことだな。爺ちゃんから聞いた。それじゃあそのリュックの中身は麹か何かか」
「こいつ、今の季節になってから仕込んでどうする。お前、まさかほんとに私の酒を飲んじまったんじゃないだろうね。窯の中に新しいのを仕込ませてもらってるんだ。
ほれ、ミヤコの店に行ったときにね、ドブロクをまた飲みたいと言うから、新酒をみんなに振る舞ってやろうと思ってさ」
尋夫はただただびっくりしておばさんの説明を聞くばかりでした。
「今、窯の中の仕込んだ酒で、おしまいさ。今度の仕込みは、この秋口だ。尋夫、それまであの小屋にいるんだよ」
おばさんはこともなげにつぶやいて、早くもタラの木を見つけて指さして見せました。
テクノラティプロフィール
この記事のトラックバックURL
http://houshakuki.blog36.fc2.com/tb.php/616-8600d2d3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック













