小鳥のように【草の宿(268)】

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草の宿(268)

 おばさんが箸でつまむ赤飯のひとつまみは、大変に少ない量です。尋夫の一箸の半分以下でしょう。
 ゆっくりと噛みしめては、ぽつりぽつりと口に運びます。

 そんなおばさんの食事の仕方は、どことなく小鳥を思わせました。小鳥はそんなにゆっくりとは啄みません。キセキレイもツバメも、いつも気ぜわしく啄むのでしたから、その連想は不思議です。

「なんだい。そんなにまじまじと見つめて」

「いや、おばさんの食べ方はゆっくりしてるなあと思って」

「お前の食べ方がすごすぎるんだよ」

 尋夫はそっと立ち上がり、小屋に入って、ストーブの熾火をかき立てました。樺の枝をストーブに入れて、少しだけ水を入れたやかんをかけます。
 樺の枝ほどに火付きの早い薪はありません。瞬時に音を立てて燃え上がり、たちまちにヤカンは沸騰を始めます。
 あわただしく渋茶を淹れて、おばさんの元に駆け戻りました。

「おばさん、お茶を淹れてきたよ」

 湯のみを差し出せば、おばさんは無言でにこりしてそれを受け取るのでした。

「お前、もう少し食べなさい。赤飯ばかりじゃダメだ。これもお食べ」

 小学生の女の子が使うような桃の花を描いたアルマイトの弁当箱は、小振りですがしっくりと手のひらに重みがありました。

 なんだか子供の時分の遠足のような気分です。

「お前、樺の薪を燃やしただろう」

 おばさんはちらりと尋夫を見て言いました。尋夫が驚いておばさんを見直すと、いたずらっぽい眼をしてこちらを見返しました。

「ホームズみたいだな」

『ふん』と、おばさんは鼻先で笑いました。

「お前は知らないかも知れないな。この山の奥に、昔は畑地があったんだよ」

 おばさんは不意にぽつりと言いました。

「へえ、いつの頃?」

「お前が生まれる前の話だ。二昔も三昔も前のことだ。昔、昔だ。けれど、たった二昔か三昔前のことさ」

「里から人が耕しに来ていたのかい」

「ばかを言うんじゃない。あそこに小屋を構えて、暮らしていたものだ」

 尋夫は思い出したことがあります。

「ああ、そうだったのか」

「おや、爺ちゃんが話してくれたのかい」

「いや、爺ちゃんはなにも言わなかったな。爺ちゃんと一緒に、スキーで山歩きをしたときに、山の中で菊の花が咲いていた。雪の中でね」

「ああ、それはきっとそれだろう。そうか、爺ちゃんはなにも言わなかったんだ。それは悪かったな」

 おばさんは吐息を漏らして箸を止め、なにやら思い出している風です。ふと小鳥のように小首をかしげるのでした。



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