火の鳥【草の宿(262)】

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草の宿(262)

 カラスの鳴き声を聞いたような気がして、尋夫は目を覚ましました。

 ずいぶんはっきりとした鳴き声だったような気がして、闇の中で耳をそばだてましたがそれきりです。

 やはり野焼きの夢を見ました。
 野に自分の手で火を入れるときに感じた、緊張感。あれはさほどのものとも思われなかったのですが、夢の中で燃えさかる野火の側に立ちつくしていた自分は、おそろしくこわばった顔をしていたようです。
 不意に燃えさかる野火の中から、カラスが飛び立ったのです。真っ赤なカラスでした。羽に火が燃え移ったのかと、尋夫が仰天して見上げると、そうではありません。
 カラスは、紅のビロードのように自ら輝いていたのです。

『こいつは火の鳥だ』

 尋夫が呆れて振り仰いでいると、赤く輝くカラスは中空で旋回して尋夫を見下ろし、実に澄んだ声で『カア』と一声鳴いたのです。

 夢の中のカラスの声だったことに、尋夫はやっと気がつきました。

『カラスが火の鳥になるなんて、妙だ』

 雨の音もしません。気温はだいぶ下がっています。

 シューバの毛にくるまっているので寒さは感じませんが、久しぶりに冬の夜のような寒気が顔に感じられました。

 目はいよいよ冴えてきます。

 窓にわずかな光があります。雲間から月が出たのでしょうか。気のせいか窓が煌めいているような気がします。
 どうやら冬の窓のように、水蒸気が凍り付いたようです。

 試しに鼻で強く息を吸ってみました。真冬には、冷気で鼻の穴が塞がれるほどですが、それほどの寒気ではありません。囲炉裏の熾火の、甘い匂いがしました。

 なんだか起きあがる気になれません。

 ぬばたまの夢のかなたの焼け野原鳥啼き卯月の夜にほひけり

 ブツブツと言葉を口の中に転がしては、夢の後味を確かめました。



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