秘儀【サイレントギター日記(2)】

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秘儀
 サイレントギター日記(2)

 長いことギターを弾いてゐなかつた。
 万策尽きたとは思つてゐたわけではない。百策すらも試行してゐません。
 サイレントギターの入手から、心機一転、ギターに向かつてゐる。
 3、4指の強化独立のための練習は幾つもあるかもしれないが、1指のみ、それから1指と2指をを押弦したままで3、4指の押弦を繰り返す方法は、実に効果がある。

 この練習法は、フアン・マルティンの教本の中で見つけたと思つてゐたが、今開いてみるがそれらしいものはない。出典が何であるのか、もはや定かではないほどに楽器から離れてゐたのだ。

 とまれ、この練習をしてみると、およそ楽器の訓練とは思へないほどの負荷が、左腕から肩にかけてかかる。
 最初にこれを試した時、左腕が肩までも上がらなくなつたのだつた。次いでその夜になつて左肩が猛烈に痛みだしたのを記憶してゐる。

 さすがにトカオールはやることが過激だと驚いたことも記憶してをり、あまりの過激さにかへつて続けてみる気になつたのだつた。さうするとやはり、何かフラメンコに関する本の中で見出した練習法であるのだらう。

 実に単純な譜であるから、かへつて見つけにくいのだ。さればこそ、この方法を秘儀と呼ぶことにする。なんとなれば、ありがたみが増すやうな気分になり、やりがいがあるからだ。これを独学の智恵と呼ぶのは大げさでせうか。

 今回、練習を再開するに際しても、まずこれをメインに据ゑることにした。
 あらためてその効果を実感する。要するに3、4指に丸で力がなかつたのだ。もしくは3、4が独立してゐなかつたのだ。

 左腕、それもまず下腕が苦しくなつてくる。それが上腕にじわじわと上つてくる。これを繰り返した後で、例へばスケールを弾いてみると、驚くほどに3、4が覚醒してゐる。

 これほどに効果的な練習法を知りながら、どうしてこんなにも長く楽器から遠ざかつてゐたのか、自分で自分を訝しむほどである。

 十日あまり、わが秘儀を続けてきたところ、かつて自分の指が弾いたなかでは最も鋭いピカードが生まれた。即ち、我指は、未踏の領域に到つたのである、・・・・と思ふことにする。

 ところで、人は皆、もしかしたらかうした秘儀といふものををいくつか持つているのではないだらうか。さうであるならば、これぞ効果がてきめんにあるといふ、それらの秘儀について伺つてみたい気がする。

 まあ、これぞ私の秘儀ですと公開するのも妙ですが、この練習が私には実に堪へられない効果があるんですといふ、さういうものを集大成してみたら、さぞかしおもしろいだらう。

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