またしても来た涛藏

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涛藏伝

其の三 またしても来た涛藏

またしても涛藏が来た。いや、来てゐたのだ。

 晩飯から戻つて、戸を開けたら、ヤツは俺が買つてをいた麦茶をペットボトルからラッパ飲みしながら、こちらをジロリと睨んだ。肝をひやさせる野郎だ。

涛藏がでかい態度をとるのは、手みやげを持つて来たせいだらう。今日のは、新しい版のVEDだ。俺の手元の古い版は、起動しなくなつてしまつたのだ。なんだつたんだ、あれは。

「飯を食つて来たのか、ふうん、アカアシエビを食つて来たな」

 俺はびつくりして涛藏を見た。

「どうしてわかるか、わかるか」
「どうしてわかるか、わからん」と、俺はびつくりしたあまり、素直に言つた。

「ここに来る途中で、万菜食堂のカウンターで貴様がアカアシエビにくらひついてゐるのを見たのだ」
「さういふことなら、わかつた」
「さうか、わかつたか」と、涛藏はここで口のハタに冷たい嗤ひを浮かべた。

「ところで、どうして俺が万菜に入つて行かなかつたか、それはわかるか」
「知らねえ。なんでだ。貴様、あの店で食ひ逃げでもしたことがあつたのか」

涛藏の笑ひが不気味になつて、聞いてみた。涛藏は、応へず大の字になつた。なんなんだ、こいつは。たちどころに睡るワザは今日も同じだ。

 瀧側の連れといふことで涛藏はやつて来る。

 涛藏といふやつがどんな男か、それは、だから瀧側に聞けばわかることだ。しかしあまり気になる奴といふ訳でも無いから、こちらから聞くといふことはなかつた。

 久方ぶりに、酔つぱらつた瀧側が来た。思ひ出したから聞いてみる。酒の入つた瀧側の口ぶりは時にしつこいから、あまりくどくならないやうにさらりとやつてくれと念を押したのだが。

 「人にモノを訊いてをきながら、話しぶりを制約するといふのか、おめえ」

 ・・・・・な、なんだよ、目が座つてるな。酒ぐせの悪さは、直つてゐないらしい。

 「さうか、わるかつた。その話しはまたにしやう」

 「なんだ、一たん訊きたいと言つてをきながら、こんだはやめろと言ふのか。ハッキリしろい、グダグタするな」

 ・・・・な、なんなんだよ。ひところにも増してクセが悪くなつてゐるではないか。年のせいか。

 「又とか、今度とか云ふのはやめろ。今出来ることは、今やるのだ。さういふ優柔なことばかり言つてるから、キサマの仕事は進まないのだ。いいか、こんなことは言ひたくないが、近頃、キサマは年のせいか腹が座つてないぞ。今から俺がカタつてやる。それからなあ、ようく聞け、『アッサリ』とか『簡明』とかを望むのは、老化現象だ。枯れて、干上がつてウマいのはアジかカマスだけだ。酒のサカナになりてえのか、キサマ」

 ・・・・こいつ、今でもあんまりいい暮らしをしてないな。俺は腹の底から、後悔したが、感念して瀧側が一席ブツのを黙して聞くことにした。

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