草の宿(139)
なぜ、アイコさんがスカート改造を主張し始めたものか、少年にはわかりません。
少年がムロに土をかむせていた数分間に、三人の会話がどんな道筋をたどったのか、ともかくアイコさんは怒っているのです。
なだめるごとくに、マキエさんがアイコさんの湯飲みにお酒をつぎました。
沈黙がしばし。少年が見渡せば、怒っているアイコさんは別にして、マキエさんもミヤコさんもなんだかしょげかえったような様子です。何ともいたたまれません。
気を取り直したように、ミヤコさんがストーブの鍋のふたを取り、どんぶりに鶏鍋をよそい、少年に差し出しました。
「尋夫、おなかがすいたでしょう。じいちゃんと二人で、今夜は静かにこの小屋で過ごすはずだったんじゃないの?なんだか悪いね」
「そんなことはない。人が来てくれれば、じいちゃんもうれしいさ」
「おじさんはいつまでここにいるのかなあ」
「それが、もうそろそろ里に下りようかと、さっきも言ってたんだ。畑に黒土をまいていないのは、たぶんうちだけだろうし」
「おや、もうそんなことをしなけりゃならないのか。早すぎるよ。今夜だって、これから吹雪くかもしれないのに。じいちゃんがそう言ったじゃない」
「・・・風が確かに出てきてるな」
少年の言葉に、再び沈黙が起こります。
「ミヤコさんたちは、いつもこのあたりでトレーニングをしてるの?」
「いつもというわけではないの。ほとんどがスキー場でしてるんだけど、沢の口あたりの斜面は、スキー場よりもいいからね。斜度も距離も、スキー場以上だから、まあ半々ぐらいでこの辺を滑ります」
「スキー場みたいに、リフトが使えないから、斜面を登る時間が無駄にならないのかな」
「歩いて登るのもトレーニングさ。斜面をよく見るのも、良く記憶するのも大事なことだから。スキー場の斜面は、知り尽くしちゃったしね」
「風紋が出来ればコブは変わるだろ」
「どんな風が吹けば、どんな斜面になってるか、もうおぼえたよ、あそこは」
「それはほんと?すごい」
「たった三キロばかりの斜面だもの。私はあそこを十年以上も滑ってるんだし」
「風紋まで、しかし、わかるかな」
「おぼえるんだ。おぼえなきゃレースには勝てません。スキーの競走なんて、ゲレンデの状態の記憶競走みたいなものなんだよ」
「尋夫君、君のスキーはすごいなあ。今時カンダーハを履いてるのは珍しいぞ。革のスキー靴なんて、私は履いたことはありません」
マキエさんが二人の会話に入ってきました。その言葉に、アイコさんも声を出して笑いました。
どうやら三人は、少年の履いていたスキーとスキー靴の年代物ぶりを噂していたもののようです。
テクノラティプロフィール
なぜ、アイコさんがスカート改造を主張し始めたものか、少年にはわかりません。
少年がムロに土をかむせていた数分間に、三人の会話がどんな道筋をたどったのか、ともかくアイコさんは怒っているのです。
なだめるごとくに、マキエさんがアイコさんの湯飲みにお酒をつぎました。
沈黙がしばし。少年が見渡せば、怒っているアイコさんは別にして、マキエさんもミヤコさんもなんだかしょげかえったような様子です。何ともいたたまれません。
気を取り直したように、ミヤコさんがストーブの鍋のふたを取り、どんぶりに鶏鍋をよそい、少年に差し出しました。
「尋夫、おなかがすいたでしょう。じいちゃんと二人で、今夜は静かにこの小屋で過ごすはずだったんじゃないの?なんだか悪いね」
「そんなことはない。人が来てくれれば、じいちゃんもうれしいさ」
「おじさんはいつまでここにいるのかなあ」
「それが、もうそろそろ里に下りようかと、さっきも言ってたんだ。畑に黒土をまいていないのは、たぶんうちだけだろうし」
「おや、もうそんなことをしなけりゃならないのか。早すぎるよ。今夜だって、これから吹雪くかもしれないのに。じいちゃんがそう言ったじゃない」
「・・・風が確かに出てきてるな」
少年の言葉に、再び沈黙が起こります。
「ミヤコさんたちは、いつもこのあたりでトレーニングをしてるの?」
「いつもというわけではないの。ほとんどがスキー場でしてるんだけど、沢の口あたりの斜面は、スキー場よりもいいからね。斜度も距離も、スキー場以上だから、まあ半々ぐらいでこの辺を滑ります」
「スキー場みたいに、リフトが使えないから、斜面を登る時間が無駄にならないのかな」
「歩いて登るのもトレーニングさ。斜面をよく見るのも、良く記憶するのも大事なことだから。スキー場の斜面は、知り尽くしちゃったしね」
「風紋が出来ればコブは変わるだろ」
「どんな風が吹けば、どんな斜面になってるか、もうおぼえたよ、あそこは」
「それはほんと?すごい」
「たった三キロばかりの斜面だもの。私はあそこを十年以上も滑ってるんだし」
「風紋まで、しかし、わかるかな」
「おぼえるんだ。おぼえなきゃレースには勝てません。スキーの競走なんて、ゲレンデの状態の記憶競走みたいなものなんだよ」
「尋夫君、君のスキーはすごいなあ。今時カンダーハを履いてるのは珍しいぞ。革のスキー靴なんて、私は履いたことはありません」
マキエさんが二人の会話に入ってきました。その言葉に、アイコさんも声を出して笑いました。
どうやら三人は、少年の履いていたスキーとスキー靴の年代物ぶりを噂していたもののようです。
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