ほら咄【草の宿(53)】

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草の宿(53)

「じいちゃん、だいぶ殺生をしたな。それじゃあ、ざっと二百匹も殺したんだ」

「そうは言うがな、おまえ。今年のネズミは、山暮らしの身には、死活問題だ。何しろ俺の食料がやられるんだ。なんの、二百ではきかんかも知れんぞ。何しろ、山道で、足下にまとわりつくのを蹴り殺したことも何度もあったからな」

「じいちゃん、からかってるな。それはウソだろ。ヤマネズミが、じいちゃんに蹴り殺されてたまるかい」

「フウン」と、祖父は鼻で息を吐き、少年を見ました。
 まじめな顔です。

「それでは、山以外では、ネズミもまだおとなしいのか。里でも、今は、そんなもんだろと思ってたがな。小野の爺さんがな、こないだ兎狩りに来て、ここに寄ってったがな。こんなことを言ってたな」

 祖父は、ニヤリと笑って話し続けました。

「初雪の頃だがな。小野の爺さんが、キノコ取りの途中で、野グソをしたそうだ。藪の中で屈んでな。そしたら、どこからともなく、ネズミがぞろぞろ現れてな、爺さんの糞を、垂れたそばから食い始めたそうだ。爺さん、ぶったまげて、ズボンをあげることも出来ないままに、逃げ回ったと言うのだ」

「ウソだ。じいちゃん、小野の爺さんのほら咄は、たくさん聞いたじゃないか」

 少年は、思わず吹き出しながら言いました。
 祖父の笑いは消えています。

「ほら咄じゃないんだ。なんなら、おまえ、今晩は泊まるかい。いったい、今年のネズミがどんなものか、一晩ここに寝たらよくわかるよ」

「泊まるよ。そのつもりで来たんだ」

 少年は、背負ってきたザックを膝の上で開き始めました。



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