祖父の炭焼小屋【草の宿(50)】

ここでは、 祖父の炭焼小屋【草の宿(50)】 に関する情報を紹介しています。
草の宿(50)

 滑走しながら、少年は煙のにおいに気づきました。

 稜線から見下ろす、遠い斜面の中腹に、緑色の波状トタンの屋根が見えました。壁から突き出たT字型の煙突から、白い煙が立ち上っています。

 小屋の壁板は、茅の束が巻き付けられていて、陽光の中で湯気を立てているのも見えました。

 小屋のそばで、黒いアヌラックの男が、雪を掘り起こしています。

 少年は、稜線の滑走から、その小屋のある斜面にスキーを向けました。身を斜面に飛び込ませるようにターンをし、小屋を目指して飛ぶ矢のように、斜面を斜めに下りました。
 凍てた雪面を滑るスキーの音に気づいて、穴を掘っていた男が手を止めて、こちらを振り向きました。

 滑りながら少年は、右手のストックを大きく振りました。

「尋夫かあ、帰ってきたのか」

 少年は声にならない、わめき声のような返事をしました。
 鋭いターンで、穴のそばでスキーを停めました。

「昨日帰ったんだ。学校は終わったよ」

「おまえ、この冬は一度も小屋に来なかったじゃないか。正月にも帰らんで」

「試験があったんだ。俺は勉強をしてたんだよ」

「そんなことを聞いたな。その試験はどうした」

「受かった。合格だ。じいちゃん、魚を持ってきたぞ。そろそろ、じいちゃんの魚が切れるって、母さんが心配してたよ。じいちゃんこそ、ここにもう、二週間もこもって帰ってないんだろ」

 老人は笑い、両手から「てっかいし」をはずし、それをぱんぱんと打ち付けました。

「ありがたいな、魚か。だが、魚なら、煮干しと干鱈がまだあるよ。見ろ、野菜も、まだこんなにある」

 老人が、雪に掘った穴の底を指さしました。雪の中に、分厚く重ねた藁の束があり、さらにその奥の土の中に、ジャガイモとニンジンがあるのが見えました。
 穴の底から、強い、土のにおいがします。敷き詰めた藁の、発酵するようなにおいもしました。、

 少年は、昨夜、子供たちが掘り起こした川の穴を思い出すのでした。



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