てっかいし【草の宿(42)】

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草の宿(42)

 日陰に覆われた斜面を登り切り、陽が降り注ぎ、雪面がきらめいている領域についに至りました。
 少年は自分の体を、日陰と日向の領域のはざまに置いて、太く息を吐きました。

 すでに少年の体は、汗ばみ始めています。
 目出し帽にして母が編んでくれた、紺色の毛糸の帽子を、巻き上げてかぶっていたのですが、それを取り、背負ってきたナップザックの中に入れました。アヌラックは脱いで、腰に巻き付けました。
 「てっかいし」と呼んでいる、これは何年も前に母が縫い上げてくれ、補綴でさらに厚みを増した、綿を入れた手袋も脱ぎました。「てっかいし」の下には、軍手をはめています。

 なんという身軽さでしょう。
 少年は、自分の体の左右を、日陰と日向に置いて、その身軽になった体で、このふたつの領域を味わいたいと思いました。

 陽光の強さは、少年が思っていた以上のものがありました。左右の腕を広げ、日陰と日向に手を開いてみると、鋭くも明確な温度差がありました。

 少年は、天を仰ぎました。不意に、思いがけない衝動が、背筋を駆け上ってゆくのを覚えました。
 それは、久しく忘れていた感覚でした。突然に全身をつつむ、歓喜。
 子供の時分には、しばしばこの感覚が訪れ、じっとしてはいられなくなりました。草むらに身を転がし、雪の中を駆け出したくなる衝動でした。
 少年は、天を仰いだまま、声にならない声を発しました。



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