草の宿(39)
カマス親父は、夕方になると徘徊するのでした。
暮れ方、おそくまで遊んでいる子供がいると、カマス親父は、正確にその子を探し出すのです。たそがれ時に、子供を捜して動き出すのです。
親父が歩くと、着ているカマスが、シャワシャワと音を立てました。大きなカマスの底と両側に穴を開けて、それを頭からかぶっているのです。親父の決まった正装でした。
頭には、さんだわらをかむっているという大人もいました。
にわかには、恐ろしい風体とも想像できません。なんだか間抜けな感じがします。子供たちが笑うと、話して聞かせた大人は、とても怖い顔をしました。
「夕方に、人をさらうのは、雪女でしょ。カマス男は、歩けばワラの音がするから、つかまるわけないよ」
「ばかやろう、それが近頃のガキの悪いところだ。雪女なんというものは、ありゃあ、オハナシなんだぞ。それに比べて、カマス親父は本当にいるんだ。シャワシャワいわせて、暗くなると歩き回るんだ。子供の生肉が好きなんだがな、見つからなければ、犬でも鶏でも、その場でひねり殺して、生肉を食うんだ。真っ赤な血を滴らせてな」
「ほんとに、ほんと?おじさん、見たことあるの?」
「・・・・食ってるとこは、見てないがな。血のかたまりが、地面に残っていて、わら靴の跡が残っていたのを、ジイサマが見たのだ。俺のジイサマが、だ」
「見たことないなら、雪女と一緒だよ。でも、やっぱり雪女の方が怖いよ。雪女は音なんか立てないもの」
「カマス親父は、間抜けな子供の肉が好きなんだよ。遊びに夢中になって、ワラの音にも気づかないでいる、そんなガキの肉を食いたがっているのさ」
子供たちが、暮れ方おそくまで遊んでいると、大人たちは言うのでした。
「早く帰らなけりゃ、カマス親父に連れて行かれるぞ」
一体どこに連れて行くというのでしょう。どこで、ひねり殺すのでしょう。子供たちは、そんな大人の声を聞くと、そんなことを言う大人と、まだ見たことのないカマス親父の両方をののしる言葉を、仲間内だけに聞こえる小さな声で、一様にぶつぶつとつぶやくのでした。
時には、恐ろしい悪漢になりたくて、子供たちは、実際にカマスをまとい、サンダワラを頭に乗せてみるのでしたが、どんな弱虫の友達も、それを見て笑い転げるだけでした。
・・・・・けれども、子供たちは、どこか心の奥底で、やはりカマス親父をおそれていたのです。昼間、友達のカマス親父の格好に笑いこけていながら、遊びから帰る夕まぐれ、ふと、藪の濃くなり出した影の揺らぎに、ワラのシャワシャワとなる音を聞いたような気がして、思わず駆け出したくなるのでした。
テクノラティプロフィール
カマス親父は、夕方になると徘徊するのでした。
暮れ方、おそくまで遊んでいる子供がいると、カマス親父は、正確にその子を探し出すのです。たそがれ時に、子供を捜して動き出すのです。
親父が歩くと、着ているカマスが、シャワシャワと音を立てました。大きなカマスの底と両側に穴を開けて、それを頭からかぶっているのです。親父の決まった正装でした。
頭には、さんだわらをかむっているという大人もいました。
にわかには、恐ろしい風体とも想像できません。なんだか間抜けな感じがします。子供たちが笑うと、話して聞かせた大人は、とても怖い顔をしました。
「夕方に、人をさらうのは、雪女でしょ。カマス男は、歩けばワラの音がするから、つかまるわけないよ」
「ばかやろう、それが近頃のガキの悪いところだ。雪女なんというものは、ありゃあ、オハナシなんだぞ。それに比べて、カマス親父は本当にいるんだ。シャワシャワいわせて、暗くなると歩き回るんだ。子供の生肉が好きなんだがな、見つからなければ、犬でも鶏でも、その場でひねり殺して、生肉を食うんだ。真っ赤な血を滴らせてな」
「ほんとに、ほんと?おじさん、見たことあるの?」
「・・・・食ってるとこは、見てないがな。血のかたまりが、地面に残っていて、わら靴の跡が残っていたのを、ジイサマが見たのだ。俺のジイサマが、だ」
「見たことないなら、雪女と一緒だよ。でも、やっぱり雪女の方が怖いよ。雪女は音なんか立てないもの」
「カマス親父は、間抜けな子供の肉が好きなんだよ。遊びに夢中になって、ワラの音にも気づかないでいる、そんなガキの肉を食いたがっているのさ」
子供たちが、暮れ方おそくまで遊んでいると、大人たちは言うのでした。
「早く帰らなけりゃ、カマス親父に連れて行かれるぞ」
一体どこに連れて行くというのでしょう。どこで、ひねり殺すのでしょう。子供たちは、そんな大人の声を聞くと、そんなことを言う大人と、まだ見たことのないカマス親父の両方をののしる言葉を、仲間内だけに聞こえる小さな声で、一様にぶつぶつとつぶやくのでした。
時には、恐ろしい悪漢になりたくて、子供たちは、実際にカマスをまとい、サンダワラを頭に乗せてみるのでしたが、どんな弱虫の友達も、それを見て笑い転げるだけでした。
・・・・・けれども、子供たちは、どこか心の奥底で、やはりカマス親父をおそれていたのです。昼間、友達のカマス親父の格好に笑いこけていながら、遊びから帰る夕まぐれ、ふと、藪の濃くなり出した影の揺らぎに、ワラのシャワシャワとなる音を聞いたような気がして、思わず駆け出したくなるのでした。
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