真知子巻き【草の宿(36)】

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草の宿(36)

「ごめんくださいまし」
 顔を上げると、角巻を左腕に抱え、右手をガラス窓の桟において、女の人が言いました。
 それから真知子巻きにしていた、はなだ色のスカーフに気づき、あわてたように、結び目を解かずに後ろにずらしました。
 丸い顔でした。見開かれた目の大きさと、頬の色と、全体に小作りな面立ちが、少女のそれのようでした。
 寒さのせいで、丸みを帯びた鼻も、頬と同じほどに紅でした。

 瑞子は、すぐにその人が、あの子のお母さんであるとわかりました。本当によく似ていました。そして、その顔は、なんだか冬の兎のようでした。

 胸に、ドキンと脈打つ思いがしました。

 その日の夕方、営林署の男たちが持ち帰った、三羽の兎の影が、ちらと脳裏をかすめました。
 三羽とも、散弾で撃ち抜かれ、白い毛には紅の血が散っていました。一様に、三羽とも、丸い目は大きく見開かれたままだったのです。

 瑞子は、板の間に置かれた三羽の兎の、見開かれた目から、視線をそらさずにはいられませんでした。

『兎の肉で腹を痛めることなんかあるもんか』

 倒れ込んだ杉山を取り囲み、みんながうろたえ、何事かを口にしていた時に聞こえた言葉が、ふと耳によみがえり、瑞子は思わず声にならない声を、喉の奥でたてました。

「おお、瀧側の奥さんだ。なんだ、早かったなあ。おかみさん、あの子の母親ですよ」

 シューバの男が言いました。

「わかりました。すぐに。よく似てますもの」

 おかみさんは、困ったような笑いを浮かべて、ガラス戸の向こうの女に会釈しました。それから、瑞子と視線を合わせ、もどかしいような、悲しいような表情になりました。



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