南極から来た雪上車【草の宿(33)】

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草の宿(33)

 玄関口に、音を立てずにそろりと、おかみさんが現れました。

「やあやあ、おかみさん、すみませんねえ。瑞子さんにも話したんだが、こいつのポンコツ雪上車が悪いんで。大通りで停めとけば良いものを、ここまで乗り込んでしまったから。お客から文句が出ましたかい?」

 巡査が帽子を取って、声を潜めて、微妙な笑いを浮かべながら言いました。

「悪かったねえ。しかし、こいつの音がすごいのは、ポンコツだからというわけじゃない。整備は万全、新品同様だ。もっとも俺は、新品の時を知らないが。おかみさん、その顔は、相当お客から文句が出たと見たぞ。この、暴言巡査に免じて許してくれって」

 シューバの男は、襟元からぼうぼうとはみ出ている羊の毛にそっくりな、自分の蓬髪を掻きながら言いました。
 おかみさんは、目を見開いて二人の男を見ていましたが、その声に、やっと訪問者が誰であるのかに気づいたようでした。

「こんなに寒いところを、よく来てくれました。さあ、おはいり、おはいり、今日はお客は三組いらっしゃってますけど、どこからも苦情はありません。あれが何ですか、噂は聞いてますけど、南極から来た雪上車ですか。樺島さん、お久しぶりです」

「ご無沙汰してます。こないだ、うちの忘年会を、こちらでしてくれたそうで。あの時は、俺は山にこもってたもので、来れなかったんだ。それに、あの忘年会には、こいつも出席したって言うじゃないですか。どうせ忘年会が、暴言会になっちまったでしょう」

 おかみさんが、口元に、うすく笑いを浮かべました。

「どうもなんだ、巡査の前で言うセリフじゃないね。いやね、腹立たしいが、今度は、こいつの世話になっちまってね。杉山さんらが帰ってから、近在の派出所に迷子の届けがないか、電話で聴いてみたところが、寒川の子供が一人、家に帰ってこないって届けがあったって言うじゃないですか。聴けば、年格好も、着ているものも、どうやら間違いない。そしてなんと、索道会社の主任さんの息子だって言うからね。樺島に連絡をしたら、運良くまだ会社にいたから、先方の親御さんに連絡をしてもらって、樺島はそのままこのポンコツですっ飛んできたってわけなんですよ」

 瑞子が二人を帳場に案内しました。玄関に向いたガラス窓の前に、事務机がふたつ並んでいます。男たちと、おかみさんが座りました。石油ストーブに日を入れ、瑞子は帳場を出て行きました。



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