草の宿(22)
男たちの話は、もっぱら迷子の男の子の素姓についての憶測でした。
迷子を見つけた喜びと、大人の保護者意識と、それから幼年時分への追憶が、男たちの会話を盛り上げるのでした。
およそどのような事柄であれ、自分自身の事を語ることは、意味があるのでした。
しかし、意味があるということを説明するのが、ためらわれます。男たちの年代になると、見つけた迷子の子供ぐらいの、幼年時までさかのぼった話では、ためらうことはありません。それが男たちを陽気にさせるのでした。
男達はやがて、際限も無いと思われる自分等の昔について、てんでんに話し始めていました。
それは至福の語らいでしたが、女達にとっては、さほどに面白くない事柄が大半でした。
一番若い女は、話好きでしたから、男達との会話に入り込もうと努めています。
そのためには、話題を変える必要がありましたが、彼女には、ここにいる男達が好きな現実の話とはどんなものであるか、少しは知っている自信があったのです。
彼女は小太りの男に向かって話しかけました。
「今日のお昼に芝山のおじさんが来たの。鯉を三尾くれたのよ」
「芝山が鯉をくれた。今時分、なんで鯉かね」
「池が凍って、鯉がネズミに狙はれるんだって」
酒の酔いと同じように、男たちを浸していた彼等だけの話の向かうから、鷹揚に相手をしてくれたことを喜びながら、彼女は続けました。
「まさか。水の中の鯉が、どうしてネズミにやられたりするんだろう。ネズミではなくて、イタチではないのかね」
「確かにネズミって言っていたわ。三尾とも背中に大きな傷があったのよ。刃物で切られたみたいな傷が。生きてることは生きてたけど、弱っていたわ。背鰭がバラバラになっていたわ」
他の男たちも、話すには楽しいが、聞くぶんには、さほどに面白くはない、それまでの話を頓座させ、二人の話に加わりました。
若い女は、元気づけられました。
彼女は、飴色の片口を持ち上げて、空になったコツプに酒を注いでやりながら笑い声を立てています。
「芝山というのは、郵便局の」
「そうよ」
「あの家の鯉は古いな」
「四十センチはあったわね。」
「それじやあ、イタチかもしれんな。その大きさでやられたなら。ところでその鯉はどこに置いてあるんだ」
「今日のお客さんの晩御飯よ」
「食っちまったのか。ひどい話だ」
「兎を殺して、食べているのは誰なのよ」
男達は醉いと、ストーブの暖気で、至福の心持ちになってきていました。笑い声が甲高くなりつつありました。
テクノラティプロフィール
男たちの話は、もっぱら迷子の男の子の素姓についての憶測でした。
迷子を見つけた喜びと、大人の保護者意識と、それから幼年時分への追憶が、男たちの会話を盛り上げるのでした。
およそどのような事柄であれ、自分自身の事を語ることは、意味があるのでした。
しかし、意味があるということを説明するのが、ためらわれます。男たちの年代になると、見つけた迷子の子供ぐらいの、幼年時までさかのぼった話では、ためらうことはありません。それが男たちを陽気にさせるのでした。
男達はやがて、際限も無いと思われる自分等の昔について、てんでんに話し始めていました。
それは至福の語らいでしたが、女達にとっては、さほどに面白くない事柄が大半でした。
一番若い女は、話好きでしたから、男達との会話に入り込もうと努めています。
そのためには、話題を変える必要がありましたが、彼女には、ここにいる男達が好きな現実の話とはどんなものであるか、少しは知っている自信があったのです。
彼女は小太りの男に向かって話しかけました。
「今日のお昼に芝山のおじさんが来たの。鯉を三尾くれたのよ」
「芝山が鯉をくれた。今時分、なんで鯉かね」
「池が凍って、鯉がネズミに狙はれるんだって」
酒の酔いと同じように、男たちを浸していた彼等だけの話の向かうから、鷹揚に相手をしてくれたことを喜びながら、彼女は続けました。
「まさか。水の中の鯉が、どうしてネズミにやられたりするんだろう。ネズミではなくて、イタチではないのかね」
「確かにネズミって言っていたわ。三尾とも背中に大きな傷があったのよ。刃物で切られたみたいな傷が。生きてることは生きてたけど、弱っていたわ。背鰭がバラバラになっていたわ」
他の男たちも、話すには楽しいが、聞くぶんには、さほどに面白くはない、それまでの話を頓座させ、二人の話に加わりました。
若い女は、元気づけられました。
彼女は、飴色の片口を持ち上げて、空になったコツプに酒を注いでやりながら笑い声を立てています。
「芝山というのは、郵便局の」
「そうよ」
「あの家の鯉は古いな」
「四十センチはあったわね。」
「それじやあ、イタチかもしれんな。その大きさでやられたなら。ところでその鯉はどこに置いてあるんだ」
「今日のお客さんの晩御飯よ」
「食っちまったのか。ひどい話だ」
「兎を殺して、食べているのは誰なのよ」
男達は醉いと、ストーブの暖気で、至福の心持ちになってきていました。笑い声が甲高くなりつつありました。
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