迷子の素性【草の宿(19)】

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草の宿(19)

 男達が酒を酌み交わしていたのは、厨房の隣、食器の倉庫を兼ねた部屋です。
 人数をなして、彼らが酒を飲むのは、いつしかこの部屋に決まっていたのです。

 馬代荘と営林署の建物の位置からして、この部屋が彼らの出入りには最も近かったし、酔漢となった自分達の騒々しさを、馬代荘の本物の客に気兼ねする必要が無かったからでした。

 厨房に通じている戸が開いて、四人の女の人が入ってきました。

 セーターを着た二人が料理番で、部屋番の二人は着物を着ています。
 本来この部屋は、彼女達の休憩所でもあったのです。
 彼女達は、白い割烹着を外しながら、男達に挨拶をしました。
おかみさんが四人を労いました。

「いま、お呼ばれしていたところよ。あなた達も今日はもうこれ切りだろうし、切り上げてちょうだい」

「おかみさん、まだ八時前ですよ。最終列車までまだ一時間もある」

「でも今日はもう無いだろう。あっても一人か二人だろうし、私と中本さんとで大丈夫だから」

 部屋番のもう一人が黙って、うなづいています。

「ところでさっきの男の子はどうしてる」

 打ち黙って酒を飲んでいた、男達の一人が聞きました。
 他の男達も物を食べる手を止めました。

「ちよっと熱があるみたいなの。今は眠っているけど」

 いちばん若い女が答えました。

「熱があるって」

 おかみさんは、椅子から腰を浮かして、驚いたように聞きました。

「大丈夫ですよ、おかみさん。そんなに大したほどでも無いし、切ないふうでもないし。眠っていますよ。ご飯もちやんと食べましたし。ちっともしゃべらないで、しゃくりあげていたけど」

「でも杉さん、子供はすぐに病気になるのよ。びっくりしたり、疲れたり、寂しくなったりでも病気になるのよ」

 おかみさんは腰を上げました。
 少し足元が揺らめきましたが、男達の誰も、いつものようにからかいはしませんでした。

「心配することはないですったら、おかみさん。子供っていつもああなのかも知れない。あたしよりちょっと熱いかなって思っただけなんですよ」

「だけどちょっと見てくるわ」

「おかみさん、世話を焼かせてしまうな」

 一人が言うと、他の男達が相づちを打った。

「いいや、あなた達こそ心配しないで」

 おかみさんは少しだけ太っていました。
 頬が赤く染まり、暑そうでした。

「ああ、酔ってしまって、暑い。これじやあ、子供の熱はわからない。体温計を持っていこう」

 おかみさんの声は、普段よりやや甲高くなっていましたが、部屋を出る足どりはしっかりしていました。
 男達は再び酒を酌み交わしました。

 女達も腰をおろしました。それからてんでに子供について憶測をしはじめるのでした。


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