迷子【草の宿(15)】

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草の宿(15)

 東南の山脈から、突風が時折吹きおろしてきました。

 堅く凍てた雪の上には、吹き飛ばすべき何物もなく、障害物も何もなく、突風は山頂から谷の底をめがけて、かたまりになって滑走して来ました。

 北西に連なる山々は、吹き降ろしてきた風を阻み、風を橈ませましたが、風は橈むはずみで加速するかのように、吹き降ろしてきた力のままに、吹き上がって行きました。

 やがて風は不断のそれになり、堅い粒状の雪が混じって凍てた雪面にはじけ、乾いた音をたてるのでした。

 刻まれたように尖った、北西の山脈の頂きの幾つかが、折々ランプの芯のように明るみます。山際近くに走った雲の、亀裂から射し込む陽光の照射です。
 短い間をおいて日が翳ると、それらのともしびは、灰色の強風の遮幕の向かうに消えるのでした。

 夕刻近くに風は途切れました。

 硬い粒々の雪も、風とともに止みました。

 空を覆っていた雲が、細かく砕けて東に向けて走り始めます。
 雲が流れた後から、巻いた敷物を敷き伸ばすように、輝く卵色の空が現われました。敷物は滑らかに広がり、瞬く間に空の全てに行き渡りました。空を映して、雪におおわれた山腹は、暖かい色に染まり始めました。

 凍結した雪面は、発光体のように明るみました。

 郵便局の裏山で、迷子の男の子が見つかりました。

 兎狩りから戻る途中の営林署の男達が、斜面の潅木に引っかかっていた箱橇の中で、かきもちを口の中に入れたまま、大声で泣いていた男の子を、橇ごと引いて帰ってきました。

 西の空は真っ赤でしたが、夕闇は、そこまでやって来ています。

 東方の空は、山脈と接している、その縁から内側に向けて、濃い青色に浸されて来ています。家並の窓には燈火が入り始めていました。

 橇の中の男の子は、人家が建ち並んだ通りまで引っ張られて来て、まだ泣き止みません。口の中のかきもちは、とっくに呑込んでいて、泣き声は、前よりも高く力強くなっています。

 橇の綱を引きながら、営林署の男達は、嬉しいような、情けないような、複雑な顔をして通りを歩いて行きました。

 シールを貼った、彼らのスキーが、踏みしめられて、凍てついた、通りの雪にきしむ音と、竹のストックが、背中の鉄砲の台座に触れる乾いた音とが、子どもの泣き声の底で、規則正しいリズムを刻んでいます。



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