山羊が聴いている【草の宿(2)】

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山羊が聴いている

 川は雪の下に、トンネルを作っています。
 流れの中に入らなければ、トンネルにもぐり込むことはできません。かすかな青味を帯びた、ぼんやりとした光が漂う、雪の穴。
 子供たちは、穴の中の遠くをのぞき、次の季節がその奥深くからやって来ることを確信するのです。

 日暮れて、子供達は帰りました。
 子供達の土を踏んだゴム長の足跡は、穴から通りへと続いています。歓喜の乱舞の刻印。もう直に一つ一つの足跡が、鋳型のように凍てつくでしょう。
 雪穴の底で、青さを保っていた草の葉は、いきなり、雪の衣に穴をうがたれ、むき身にされた上で寒気にさらされ、しぼられたタオルのやうに、細く尖って氷り始めています。

 緑の屋根の家を囲っている茅の束の間から、山羊が首を出しています。
 その葡萄色の目にすらも、白く氷の皮膜が張りさうに、夜の寒気が募り出しました。それでも山羊は、壁飾りのやうに動きません。

 昼の陽光に溶けた雪の表面が次第に氷結を始め、水の音は昼にもまして鮮やかになり、山羊はその音と、それから、それに和するような、体内の音に聞き入っています。
 身篭っているのです。

 凍てついたトタン屋根から、乾いた、植物の実がはじけるやうな音が立ち始めました。
 寒気の上空では、星が細かく震えています。
 星々の震えが、はじける予兆であるならば、やがてトタン屋根が発する音に似た、いくつもの小さな響きが、寒気がはりつめた夜の空から聞えてくるでしょう。


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