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手ぶらのみやげ(承前)

手ぶらのみやげ( 承前 )
 目覚めると、雨の音が聞こえました。

 障子は明るく、隣の部屋では両親がまだ起きているのです。

 いつの間に降り出したのだろうと、少年は暗い窓の外をぼんやりと眺めました。目覚めたのは軒端からしたたっている雨の音のせいかと思いましたが、隣の部屋から声をひそめた会話が聞こえてきたのに、少年は耳をそばだてました。

 おじさんの声です。

 蒲団をはねのけて、すぐに起きあがろうとしましたが、おじさんの声の調子に、ふと思いとどまりました。

 いつものおじさんの声ではありません。なんだか大切なことを話し込んでいるのでしょう、少年は仰向けのままに隣の部屋の声に聞き耳を立てました。

「・・・・それほどの怪我ですんだのは良かったが、だが驚くだろうなあ。見ず知らずのおまえという男がいきなり尋ねていったのではなあ」

 考え考えつぶやいているような、なんだかとても緊張しているような父の声でした。

「母には電話で話しました」

 少年は少し驚きました。聞いたことのない声です。若い、女の人の声でした。少年は思わず身体が硬くなるような気がしました。どうやらお客のようなのです。

「うーむ」と父が唸るような声で返事をしています。

「それでもびっくりするでしょうね。私たちだってびっくりよ。
 どうしてもっと早くに教えてくれなかったの。いいえ、こうしてお会いしただけで、こちらのお嬢さんがいい人なのは一目でわかったわ。それでも、お怪我をした上で、いきなりあなたがお手伝いをしますと言って、お父さんはどう思いなさるか」

「母は怪我よりも、身体を動かせないで弱り果てている父のことが心配みたいです。父は丹精してやっと出荷という日を迎えたのに、自分の不注意で怪我をしてしまって、ひどく落ち込んでいるみたいなので」

「義姉さん、すみません。俺がもっと早くに、この人を紹介しておくべきだった。
 まさかこんな事が起ころうとは思いもしなかったものだから。だけど、俺の気持ちはもうだいぶん前から決まってるんです。
 今度のことは、先方のお父さんには気の毒で、こんな時に俺が出ていったら、妙かも知れないけれど、この人の親なんだ。
 順序が逆で妙な具合だけど、とにもかくにも今が大事だと思うんだ。やってやれないことはないと思うし、俺が引っ込んでいるわけにはいかないよ」

「よし、そうか。わかった。おまえたちの気の済むようにやるがいい。
 確かにおまえの言うとおりだ。祝言が済んでいるとかいないとか、そんなことより、おまえたちの約束が一番だ。俺がおまえでも、そうする。うん、確かにそうするに違いない。
 よし、それならば行け。ここでおまえという男が引っ込んでいてなるものか」

「だけど父さん。怪我をして身体を動かせずにいらだっているところに、いきなりこの人が出向いたら、お父さんは怒り出すんじゃないだろうか。
 何と言っても、たった一人の大事なお嬢さんなんだよ」

「娘を嫁にやるオヤジの気持ちかい。そいつは俺にはわからんことだ。何しろ俺の娘は、まだ赤ん坊だし」

 少年がびっくりするほど、いきなり隣で寝ていた妹がブルッと身体を震わせたのがわかりました。

「何だよ、おまえ。起きてたのか」

 障子の明かりで透かしてみれば、妹は夏蒲団から眼を出しています。その目は大きく見開いていて、それは妹が怒っているときの眼の表情です。
 蒲団の中で、妹はいきなり少年の腕を握って強く振りました。

「父ちゃん、あんなことを言った。・・・あたしはアカンボじゃないのに」

 少年の耳元に早口でささやきました。少年はクスリと笑いました。

「いつ起きたんだ、おまえ」

 今度は少年が、妹の耳に口を寄せてささやきました。

「おじさんが帰ったときから目を覚ましてたよ。兄ちゃんよりずっと早くに」

「フーン」と、少年は少し鼻白みました。

「ねえ、兄ちゃん、あのお客さんねえ、おじさんのお嫁さんになるひとなんだよ」

「俺にだってわかったよ、そんなこと」

「おじさんはねえ、会社を休んでお嫁さんの家に行くつもりなんだよ。お嫁さんのお父さんが、怪我しちゃったから」

 「シッ」と、少年は指で口元を押さえてみせました。

「とにかく明日の朝一番に乗るのなら、もうお休み。
 お嬢さんも、お父さんの怪我が心配だろうが、ともかくこいつが精一杯やるといっているのだから、今、くよくよ心配しても仕方がない。
 こいつはこんなやつだが、こんな時に何だが、どうぞよろしく頼みます。
 これは鉱石を勉強したせいか、肝心なときになるとカチカチになるところがあるが、根はそんなにダメなやつでもないのさ。
 兄貴の口から言うのもなんだがね」

「父さんだって、緊張したら口が廻らなくなっちゃうじゃないの。
 鉱石の勉強は関係ないわよ。
 これは遺伝よ。
 でも大丈夫、あんたの方が、お父さんよりしっかりしているのは、私が保証して上げる。なにより、お嬢さんも一緒なんだから。
 それより、くれぐれもお父さんの今の心持ちを大事にしてあげなきゃね」

 母のその言葉を聞くやいなや、妹はやおら身体を伏せて、枕に顔を押し当てました。笑い声を漏らさないつもりのようです。

「だけど何だなあ。こんな場合も場合とはいうものの、みやげというより、お見舞いもおまえは用意をしていないようだな。息せき切って出向くのもわかるが、なにかを用意していった方が良くはないか」

「ほんと。お見舞いに手ぶらというわけにはいかないわ。といっても、私のところで用意できるものといえば、この時間からではねえ。畑で作ったものぐらいしか用意できないけど。新芋を掘ったのがあるけど、お見舞いに芋ではねえ」

「なに、こんな場合が場合だ。芋というわけにはいかないだろうが、どうだ、トビダケがあるぞ。こんな山の中だ、珍しいものといえばあれぐらいだろう」

 妹は枕に噛みつきました。足をばたつかせています。

「ばかだな。そんなに笑うんじゃない。真剣なんだぞ」

 少年は肩を震わせて笑っている妹を、呆れながら見やって、怒ったようにささやきました。

「いや、兄さん、そんな心配はしないでくれよ。見舞は駅で何かを買うから。それにそんなに荷物は持てないんだ」

「なに、荷物が持てない。何だ、おまえ、あのリュックひとつばかしじゃないか。男が見舞も持たずに出向いてなるものか。お嬢さんにも持ってもらうのだよ」

 なにか唸るような声がして、おじさんが困っている様子です。障子の向こうが、少年には今や、なんだか目に見えるような気がしました。

「ええと、兄さん、義姉さん、俺たち、実は赤ん坊が」

「三ヶ月なんです」

 隣の部屋の、声が止みました。

 妹ははじかれたように枕から顔を上げ、にじり寄ってきたかと思うと、いきなり少年の顔を覗き込みました。その目はまたしても見開かれていましたが、今度は怒っているのではありません。

「兄ちゃん、聞いた?おじさんの今度の手ぶらのおみやげは、赤ん坊だって」

 少年も思わず身を起こし、薄暗がりで、二人はびっくりして顔を見合わせました。


 雨は止んでいました。

 朝靄が、山から谷の方向に流れていくのが見えました。

 おじさんと女の人は、父と母に向かって頭を下げました。

「おじさん」と、二人は同時に言いました。その後にどう言っていいのか、少年は少し戸惑ってから、思い切って叫ぶように言いました。

「行ってらっしゃい」

 妹も、次の言葉が見つかって安心したように叫びました。

「行ってらっしゃあい」

 おじさんは右手を上げて、少年と妹に笑いかけました。
 女の人は、二人に向かっても、深々と頭を下げました。

 リュックを背負ったおじさんと、小さな青いバッグを肩にかけた女の人は、手をつないでいました。

 雲が切れ、朝の光が差してきました。楓の木の下を、二人はゆっくりと歩いてゆきます。

 木漏れ日朝靄の中で幾筋もの光の束になり、遠ざかる二人を照らしていました。



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2007/09/20 01:29|小説TB:0CM:0

手ぶらのみやげ

手ぶらのみやげ

 靴の中に小石が入り込んで立ち止まると、妹はかたわらを歓声を上げて走り抜けて行きました。

「兄ちゃん、やっぱり早すぎなかったよ」

 藪の中から妹の叫ぶ声が聞こえます。その声に、少年はすばやく靴をはき直して、妹の後を追いました。

 イタドリの茂みをくぐり抜けると、川の流れる音が不意に高まりました。妹が川縁に立ってこちらに向けてあわただしく、おいでおいでをしています。

 妹の背丈よりも伸びたクマイチゴの一叢が、夕方の影を濃くする陽光の中に、黒ずんで見えました。その黒い密集した葉陰に、つややかな紅の実がたわわに輝いているのを、少年は駆け寄りながらも素早く見届けました。

「どうだ、すっかり熟しているだろ」

 少年は得意そうに叫びました。

「兄ちゃん、すごい。こんなに大きなクマイチゴよ」

 妹の声は興奮してうわずっています。

 この川縁のクマイチゴは、少年が見つけた特別のクマイチゴです。何故かはわかりません。この一叢のクマイチゴは、際立って実が大きく、際立ってたわわに実り、そして甘みが濃かったのです。

 二人は夢中でクマイチゴを摘み、摘んでは口に運びました。

 あるいはこれは、クマイチゴではないのではないかと思われる、なんだか夢で嗅いだかとも思われるような、懐しい匂いがあたりに充ちています。


 夢中でイチゴをほおばっている二人は、不意に顔を見合わせました。あるか無きかの風にまじった歌声が聞こえてきたのです。

 少年は向かい側の斜面の山道に目をやりました。潅木の合い間から、ちらちらと数人の人影が見えました。いづれも白いシャツを着ていて、中に一人だけ水色の夏服が見えました。

 温泉から帰る町の人たちです。

 歌声と砂里を踏む乾いた足音は、やがて二人がいる真上までやって来ましたが、誰も川縁の二人には気づかない様子でした。夜も近いその時刻に、いかつい登山姿ではなく、まるで町中を行くような華やかな軽装で山道を歩く人たちは、嫁入りの行列のような眺めです。

 歌声は大人の女の人の声でした。

 度胸の入った大声で、『月がとっても青いから』と、歌っていたのです。
 二人は夏草の中に立ちつくし、行列を見送りました。歌声は終わりませんでした。遠のき、足音が聞こえなくなっても、歌声だけはながながと聞こえたのです。

 人々の気配がすっかり失われるまで、二人はイチゴを摘む手を止めて、そこに立ちつくしていました。


「ねえ、おじさんは帰ってこないかなあ」

 妹がつぶやくように言いました。街に帰る人たちの姿に、街に住んでいるおじさんを思い出したのでしょう。

「今度来るときはなにを持ってきてくれるかなあ」

「やっぱり手ぶら土産がいいよな」

 少年も、ふとおじさんの姿を思いだして言いました。

「あたしも手ぶら土産がいい。でも「リボン」も早く読みたいなあ」

 二人のおじさんは、鉱山につとめています。採鉱課を卒えて、街の向こうの鉱山で働いているのです。

 月に一度か二度、おじさんは帰ってきます。おじさんが帰ってくるときには、必ず二人におみやげを忘れませんでした。

 おみやげは町で買ってきてくれた雑誌やら、お菓子やら、色鉛筆やら、色々です。

 けれども時としておじさんは、何か急な用件で帰ってくることがありました。その時には、街に寄らずに、鉱山からまっすぐ山の家に向かってくるのです。町で買ったおみやげは手にしていません。

 あわただしく父や母とに大人の相談をして、おじさんはすぐに街に戻るときがあるのでした。

 そんな時、遊びに誘う言葉もかけがたく、二人が凝っと見守っているのに気づくと、おじさんは不意にポケットを探るのでした。

「悪かったな。今日は俺は大急ぎだったんだ。街による時間がなくてね。今度来るときに本は買ってきてやるよ。今日の土産はこれで我慢してくれよな」

 おじさんはそう言って、何度かポケットの中身をおみやげにくれたのでした。

 あるときはレンズが四枚も重なったルーペでした。駄菓子屋で買った虫眼鏡とは比較になりません。ずしりと重みがあり、覗き込めばそこには虫眼鏡では見られない神秘の世界があったのです。

「ほんと?おじさん、これをもらっていいの?」

 少年も妹も、あまりのことに目を見開いて叫ぶように聞きました。

「いいとも。どうだ、これはドイツ製だぞ。チョウチョの鱗粉だってかたちが見えるぞ。その辺の小石をこれで見てみな、全く別物みたいに光るものが見えるぞ。だけどひとつしかないからな。けんかをしないで、二人で大事に使うんだ」

 時にはポケットから、十徳ナイフが出てきたこともありました。貝の化石が出てきたこともありました。

「今日はほんとになにもないのだ。山道を登って何にもないのに気がついてな、困った困ったと思って歩いてたんだが、おまえたち、こんなのが弦の助沢の河原にはあることを知らなかっただろ。ふと思いついて、土産と言うにはあんまりだけど、これを拾ってきてあげたよ。なに、五分もしないで見つけたよ。俺が子供の時は、あの辺で沢山化石を集めたんだ」

 なんというおじさんの手腕でしょう。子供の目にも、それは価値などつけられないような、宝石に思われたのです。

「おじさんのおみやげは手ぶらがいい」

 少年と妹は、いつとはなく、二人だけの合い言葉のように、おじさんを思い出してはつぶやきあうのでした。

(この稿は続きます)



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2007/09/20 01:27|小説TB:0CM:0

林檎

林檎

 十五の歳から、一人暮らしを始めたのだが、何しろあのころはむやみに腹が減つた。

 今もさうだが、そのころも深夜になつてから空腹を満たすために出歩くのだつた。だが、当時は飲食店に入るといふことは無かつた。

 僕はしばしば、その店で食べものを買つた。
 たいていは林檎を幾つか買ふのだ。その店は、その町のその界隈では、唯一、夜遅くまで店を開いてゐたのである。

 林檎は、実によく食べた。
 安くて量のある食べものといへば、とりあえず林檎がさうだつたから。はつきりとその値段を覚えてゐないのが残念だが、とにかくしよつちゆう、そのころの僕にも買ふことができ、そして受けとる時の充実した重たさがある、重要な食糧だつたのだ。

 林檎は、その店先に年中あつた。
 青い夏林檎、黄色いインド林檎、けれどもなぜだか、やはりつややかな紅の国光の色彩が、あの店にはふさはしい気がしてならない。夏林檎も、インド林檎も、その芳香を思ひ出すことは容易だが、その店で深々と吸ひ込んだのは、秋の国光の匂ひの時が、多かつたのだらう。

 さうだ、あの店を思ひ出すとき、それは秋を思ひ出すときでもある。あの深夜の店先は、秋の深夜以外ではないやうな気すらする。

 僕は今でも時々、その店の夢を見る。不意に訪れるその夢に、愉しくも、儚いもの、それが夢なのだといふことを悼まずにはゐられない。

 その思ひは、もしかしたら、あの店の夢が、秋を感じる瞬間であるからかもわからない。

 夢の中で、僕は店の中に入る。
 薄明かりが、果物を並べた木の台を照らしてゐる。夜の果物の、濃密な芳香が満ちてゐて、肺の中に一瞬にして酔いを誘うような、眩暈を引き寄せるやうな、それでゐてこの上なく、しつかりした平安の気持ちを齎してくれたのだ。

 店の奥から、おばさんは、顔なじみになつた僕に、かすかに、やはらかな笑みを浮かべて現れるのだつた。

 腹を減らした僕は、髪をひつつめた、白くて小さいおばさんの顔を見ると、どんなに安堵したかわからない。

 おばさんは、必ず一つか二つの林檎をおまけにして、新聞紙の袋の中につけ足してくれるのだつた。さうしてこのおばさんからのおまけには、その当時の僕も、素直に嬉しく思ふことができたのだ。

 未だかつて、人から物を貰つて嬉しかつたのは、ただ一度だけ、このおばさんのおまけが唯一無二のもののやうな気さへする。

 「よつこらしよ」とか「どつこいしよ」とか言ひながら、おばさんはふくらんだ袋を、僕に手渡してくれた。おばさんのその言葉が似合ふほどな重たさが、ぼくが受け取る林檎の袋にはあつた。

 あのおばさんは、いつたい当時いくつぐらいの人だったのだらう。あるひは今の僕よりも、若い年齢であつたかもわからない。

 僕は時々その店を夢に見、その夢を見るたびに、何だかかうして夢に見てゐるやうに、見やうとすればいつでも必ず見ることができる、唯一の夢、それがこの秋の夜の小さな果物店の夢なのだといふ思ひを、通奏低音のやうに、夢のさらに向こうの意識の奥底で感じてゐるのだ。



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2007/07/25 01:31|小説TB:0CM:0

サギ

サギ
 貯水池にはいつも、ダイサギがゐる。
 一羽、もしくは、二羽である。一羽は必ずゐる。もう一羽は、その連れあひかもしれない。

 ダイサギ、と云つたが、実のところ、チュウサギかもしれない。
 コサギでないことは、後頭部に、カンウがないことからわかるが、チュウサギ、ダイサギの相違といふのが何であるのか、今ひとつ判然としない。だいいち、おおがらなチュウサギより、小柄なダイサギが大きいといふことが、あるのだらうか。

 ともかく、図鑑二種の記述から、チュウサギよりは、ダイサギの条件に、より多く合つてゐるやうだ。大きさは、どうみても一メートルは、あるやうだし、単独でゐることもある、といふことが、その理由である。
 ところで、愛用してゐる、ヤマケイ図鑑の表紙カヴァーは、ダイサギである。この、壮麗な羽を見ると、ひよつとしたら、貯水池のサギは、チュウサギではないかと、不安に、なるのである。

 ある時、町中を流れる、堰の底にサギがゐた。

 それは、浚渫し直され、コンクリートで堅められた、脚下、五メートルばかりを流れる堰である。

 町中では、飛ぶ鳥を、見降ろす機会は、少くないが、それが、細く、深く切られた、箱のやうな、堰の底であり、しかもその鳥が、白く、大きな鳥である、というケースは、多くはない。

 私は、自転車に腰かけたまま、ガードレール越しに、堰を見降ろしてゐた。排水も流れ込む、いささか濁った、浅い流れだ。二十センチほどの深さだらうか。流れの底の、コンクリートには、アオミドロが、やうやく、まだら状に育ち始めて、ゆるやかに靡いてゐる。

 鳥は、首を斜めにのばし、凝然と流れをみつめてゐる。どうやらアオミドロの色濃いあたりを、狙つてゐるらしい。集中、を、形にしたやうな姿態が、まさに、集中してゐるのである。

 ふと、鳥が、吐息をついたやうに見えた。白い、陶磁の像が、首をかしげ、箱の底から、私を見上げた。鬱陶しいものを見る、目つきだつた。『チェッ、』という、舌打ちが聞こえさうだつた。鳥は、羽ばたき、ゆつくりと水面を離れた。

 私は、息を飲んだ。

 一メートルは、優に越ゑる、白い翼が、濁り水の上に広がり、柔らかく揺れた。細く、長い首は、乙の字型に、翼の中にたたみ込まれ、もはや、私なぞには目もくれず、まつすぐ前を見ていた。箱の底の水面近く、大きな白い鳥は飛び、堰と交叉する橋をくぐつて、私の視界から消えた。

 この時以来、私はサギへの、印象を改めた。都市鳥化をすすめる鳥からは、鳥であることの、尖鋭さが失はれてしまふ、といふ印象も改めた。それは、中国地方の町中で、公園の真中に立つてゐる、プラタナスの樹上に巣をかける、サギを見て以来、いだいていた、印象だつたのだが。

 貯水池のほとりで、わたしは、いつものように、サギを見つけたが、しかし、夏空を映す、広々とした水面に、佇立しているサギほどに、見てゐて退屈なものもないだらう。

 天を向いた姿勢で、嘴から、噴水でも出してくれ、と、云ひたくなるほどに、動かない。

 彼の集中に、おのれの気持ちを、重ねる気にはなれない。彼が、何を凝視してゐるのか、彼が心象の乾坤に、何が渦巻いているのか、そんなことは、どうでもよいことだ。

 飛翔したところで、あの堰の底に描かれた造影は、甦ることはないだらう。

 私は、ただ、このサギが、ふと、その緊張を解き、こちらに視線をよこして、ギョッ、とした顔をつくり、それから、『チェッ、』と、舌打ちでもしてくれぬかと、少しばかり、待つたのである。けれども、サギの気を引くには、彼我の距離は、あまりにもありすぎた。

 炎天に首を焼かれ、私は、さうさうに退散した。

 先日、鳥のさえずりの、音響編集を試してみて、その音の波形が、羽を広げた鳥の姿そのものである場合が、しばしばあるのに驚いた。百種ほどの、さえずりだったが、私は、幾度となく、あの堰の底の、白い翼を、想起した。



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2007/07/25 01:30|小説TB:0CM:0

ホタル

ホタル

 ワラシは、その夜もむづがるをんだつた。

 祖母がワラシば、低い声でなだめでだをんだ。むづかる声も、なだめる声も、部屋の中さ時折そよぎ込んで来る、初夏の夜の風みてつた、途切れがちな、か細いものであつたをんだつす。

 ワラシの母親は、わだすの妹だをんだ。
 妹は仕事のために長く家ば留守にしてゐて、この一人娘ばあやしてやるごどはでぎません。

 わだすは、いぎなりいつしよに暮らすやうになつたワラシの、父親の代はりの、豊かな力になるごどば願つてをりますた。

 んだども、ある日不意に身近に現れたワラシだはんで、途惑つてもをつたもんだのです。
 幸福ななりゆぎで、同居するごどになつたをんではね幼児に、わだすは緊張すらも感じてゐだのだす。

 時には、わだすの大人の男の資格ば疑ふごどによつて、そすてもつとしばしば怠惰のために、わだすはワラシにとつて、優しい肉親ではねがつたのだんす。
 わだすは、わだすもまだ父親ば知らねで過ごした、わだすのワラシ時代ば思つたりしてあつたをんだつす。

 無力感は次第に、なんもすべきでね、といふ思ひに転じるかのよんだつたつけ。
 背後のワラシの泣き声は止まねがつけ・・・・。

 明け放した窓がら、初夏の小虫が、わだすの机の上の光ば目ざして飛んで来たのだす。緑色の小虫は、広げた本の頁の上に下り、その小さな体にはあり余る程の、豊かな光ば浴び始めだのす。

 んだども、わだすはこの幸福な日光浴ば楽しみだした小虫ば、邪慳に頁の上がらはじき出さうとすたのだつす。
 小虫は、わだすの指と遊戯ばするみてたに、跳んだもんだつす。
 頁がら机の上さ、それがら照明のスイッチの上さ、跳んだもんだつす。

 わだすは追ひつめるものになつて、息ばひそめてスイッチば押さえでみだのつす。小虫は、はぢけたみでにどつかさ失せ、指先は空しく、スイッチば押すてあつたのだんす。

 闇が、不意に部屋ば満たすたのだつす。

 ワラシの泣き声が止みますた。祖母が、ためた息ば、静かに吐いたおんだつす。

 わだすは、緑の小虫ば忘れてありますた。
 背後の闇さ向けて、じぇんぶの感覚ば集中させますた。

 わだすは、ワラシに、呼びかけてやりたいと思ひますた。
『泣き声ば、煩はしく思つてゐるのではねえのんだはんで』、つて・・・・。



 いぎなりワラシの甲高い声がすますた。

 祖母の声が、それに和すますた。
 わだすは、耳ばそばだてますた。

 わだすは二つのその声の中に、んだども、予測したもんではねがつた、何だが明がるい驚ぎがこもつてゐだのば聞いだをんだつす。

 「蛍だべ」

 「んだね、蛍だをんだよ」

 ・・・・何としたもんだべが、ワラシの声もバッチャンの声も、浮がれたみてたにはずんでをつたもんだもの。

 背後にはりついた凍てついたものば、何ががすばやく溶かすのば、わだすは感じでをりますた。

 暗闇ば見回してあつたのす。だども闇のどこさも、あの小つちえ光が、輝いてゐるのば見つけるごどはでぎねがつたのす。

 「背中し、背中」

 ワラシが夢中になつたよんた声で叫んだのつす。

 「背中し、背中」

 バッチャンの低い笑ひば含んだ声が、同じ言葉ば言つたのす。わだすは、息ば深く吐きますた。

 二人ば喜ばせだ、ちつちやこい光は、こわばらせてゐだ、わだすの背中さ灯つてるずおんだど・・・・。

 わだすはわだすの背中さ灯つてゐる、小さな光ば思ひ描きますた。
 それがらワラシに、初ずめで慕はしく声ばかけられたみてつた気分に気づぎ、それば確かめてをつたをんだつす。

 小つちえ手が、わだすの背中さ触れますた。
 ワラシはわだすの鼻先に、光ば乗せた、小さい掌ばさしだしますた。

 青い、丸い、搖れる小つちえ光が、ワラシの手の平の筋ば、照らしてあつたのす。わだすは、わだすの指先で柔かいワラシの手の中に、小さな光ば囲む円ば描きますた。

 それが、わだすが、このワラシに触れた最初だつたのだす。喉の奥でワラシは小つちやぐ、笑つたもんだつす。

 「逃がしてたんへ」

 バッチャンが言つたをんだつす。わだすは闇の中で、その声に振り向いだおんだ。その言葉ば、とつさになぢつてをつたをんだつす。

 「うん」

 わだすは驚きますた。

 ワラシの声には、かすかななごりば惜しむ気配があつたをんだすが、確信に満ちた即答んであつたもんだすけ。

 明け放した窓がら、ワラシは小さな光の玉ば乗せた、右手ば高くかかげますた。

 光の玉は、なほ掌の上にとどまり、歩み、ワラシは何がば、支へるみてつた姿勢で、それが飛びたつのば待つてをりますた。

 わだすも祖母も默つて見つめて待ちますた。

 小さな光はおもむろに移動し、ワラシが羊草の花みてに軽く丸めた、指先ば上りつめ、ひと呼吸の間ばおいてそれば離れますた。

 浮き上がり、ワラシの頭ば越ゑ、あるがなしが流れてきた風に搖れて、弧ば画きますた。

 窓ば離れ、廂ば越ゑ、林檎の枝ば越ゑてまだ上り、それがら不意に、晴れ渡つた天にちりばめられた星々のあはひに、紛れですまつたのであつたのです。

 わだすたちは窓により、なほ小さな輝きば星の中ささがして、天ば仰いでをりますた。

 やがてあの光が上つていつた、天の遥かな高みがら、星ば刻むよんた、夜鷹の啼き声が流れてきてあつたのです。



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2007/07/25 01:25|小説TB:0CM:0

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